金融業界では非常に有名な存在でその発言に常に大きな注目の集まるレイダリオは今年9月末、自ら創業したその世界最大のヘッジファンド運営会社ブリッジウォーター・アソシエーツの経営権を取締役会に譲渡し、共同最高投資責任者CIOに退いたことで市場の注目を浴びることとなりました。
後継者探しは2010年から行われ実に12年もの歳月がかかったことになりますが、ようやく完結しました。
そんなレイダリオはちょうど1年ほど前にPrinciples for Dealing with the Changing World Order: Why Nations Succeed and Failという本を出版して話題になりましたが、過去500年という壮大な人類の歴史に関わる内容であることから、なかなか読みづらいものでもありました。
この本の中で示されているThe Typical Big Cycle Behind Empires’ Rises and Declines、日本語で言えば帝国に背後に佇む典型的なビッグサイクルの中の第六フェーズとなるRevolution and Wars・革命と戦争のフェーズにとうとう我々は突入したとLinkdInに投稿し、足もとで改めて大きな話題になりはじめています。
とくに革命・戦争と言うフェーズに突入したという話はかなりセンセーショナルであり、市場関係者の中でもそれをどう認識評価するかについてかなり意見が分かれ始めているようです。
革命・戦争フェーズ突入の瀬戸際状態を警告するレイダリオ
LinkdInに寄稿されたレイダリオの内容はそのまま転載できませんが、概略だけご説明します。
すでにレイダリオが示している典型的なビッグサイクルの中で、これまで彼は我々が紙幣大増刷と信用創造の第五フェーズに佇んでいるとしてきましたが、いよいよ革命と戦争という第六フェーズに突入しようとしていると警告を発しています。
そしてこの前提から市場や世界に起きる様々なニュースを見て理解しないと、ここから訪れるであろう厳しい状況に準備し対応する力を失うと警告しているわけです。
実は2年前レイダリオが出版に先んじてこのビッグサイクルをLinkdInの中で説明した時には、金融・経済危機、内戦に接する大きな内戦、何らかの形の国際戦争につながる可能性のある大きな対外紛争といったサイクルの図式は、誇張されているや、信じられないといった批評、批判を浴びたと本人も語っています。
しかし足もとではこうした国内における内戦、あるいは国際的な戦争のステージに突入する確率が不快に思えるほど高まりを見せていることに同意する人が増えているといいます。
中でも国家間の争いに関しては貿易/経済戦争、技術戦争、資本戦争、地政学的戦争、軍事戦争といった5つが存在し、先に進むほど本格的な銃撃戦が伴うものになるとレイダリオは指摘します。
ウクライナ戦争を挟んだロシアと欧州、米国との争いはすでに貿易・経済戦争を経て技術戦争、資本戦争のフェーズに及んでおり、NATOが絡むことになれば地政学的戦争が勃発するのはかなり可能性の高いものとなってきていることは今や誰しもが意識しています。
世界の指導者は長いこと人類の歴史の失敗を繰り返してきており、また戦争に突入してしまう可能性が極めて高いことをレイダリオは指摘しています。
レイダリオはロシア・ウクライナ・NATO戦争、米国と中国の台湾紛争、イランの内外の紛争、北朝鮮の緊張を具体的な戦争フェーズの材料としているようですが、こうした要因は並行して動いているだけに複数が同時期に火を噴く可能性も十分に考えられ、事態は想像以上に深刻な領域に突き進んでいることが窺われます。
レイダリオの分析で面白いのは、これが特定個人による歴史分析史観に基づくものではなく徹底してファクトをコンピューターにかけて冷静かつ客観的に分析していることで、だからこそ500年にもおよぶ世界の帝国の繁栄と衰退のサイクルを扱うことができている点が秀逸なものに仕立てています。
金融市場はこうした大きな戦争の勃発を全く織り込んでいない
この話は軍事アナリストが分析予想しているならばまだ理解できますが、世界最大のヘッジファンドのつい最近までCEOを務めていたもっとも金融市場に近い人間が口にしているという点が非常に注目されます。
足もとの金融市場は利上げを続行するFRBがどこでそれを思い留まって逆に利下げに転じるかというテーマに市場全体が引き込まれており、経済指標がでるたびにそのフィルターで見て一喜一憂しているので、広域的な戦争や内戦といった想定外の事態を全く織り込んでおらずとてつもないパニック状態が市場全体で起きるリスクは相当高くなります。
レイダリオの寄稿でもう一つ面白いのは、戦争が起きると富の一掃が起きるということです。
これは1900年から世界の主要10大国の資産の実際のリターンを調べた結果に基づいています。
調査の対象となったのは英国、米国、中国、ドイツ、フランス、ロシア、オーストリア・ハンガリー、イタリア、オランダ、日本で、過去2回の世界大戦時では戦勝国になったところも敗戦国になったところも含まれています。
それによりますと10か国のうち7か国では富が少なくとも一度は事実上一掃され、富が一掃されなかった国でさえ資産収益が本質的に財政的に破壊されたひどい数十年を過ごしています。
国にとっては戦争に突入するということは図らずも最大の公共事業となり、デフレを脱却する凄まじいドライバーになるのかも知れませんが、国民はその戦争に勝っても負けても富を大幅に失う最大のリスクであることを改めて認識させられます。
ひとたび戦争に突入した場合、我々は個人資産をどう守り金融市場での投資をどう進めるのかが大きな問題となりますが、おぼろげながらもそうした想定外の事態にどう対応するかを準備しはじめる時間帯に差し掛かっているようです。
恐らく戦争的局面がこの先進行する度にレイダリオの言説がクローズアップされることになると思われますが、今のうちに十分にその内容を知っておくことは大きなアドバンテイジになりそうです。