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年初から米国財務省のイエレン財務長官が強烈に米国のデフォルト危機を訴えはじめ、歴代の財務長官としては過去にないぐらいの勢いで米国のデフォルトを煽る発言を多くのメディアで語りはじめており、その対応に市場では様々な憶測が飛び交いはじめています。
米国の債務上限問題は今に始まったことではなくかなり長い歴史を誇るもので議会が上限緩和を承認すれば事足りる話に見えますが、今回のイエレンのデフォルト煽りはかつてないほどの勢いで、何か全く別の思惑があるのではないかとさえ思われています。

米国の債務上限問題は頻繁に露出する今や定番の問題に

米国の債務というのは青天井でいくらでも使えそうに思われますが実はその上限は決められており、それを超えるためには必ず上下両院の議会で承認を得る必要があります。
戦後この債務上限問題は米国では102回も議会で承認変更されているため日常茶飯事の息を超えており、議会さえ通過できればさしたる問題ではないという認識が国民に広がっているのが実情です。

しかしイエレン財務長官は年明けから精力的にこの問題をメディアでも話すようになってきており、ひとたび上限に達成して国がなんの支払いもできなくなれば米国債はデフォルト・債務不履行に陥る可能性を訴えています。
すでにこのまま議会がもめ続けることになれば6月中旬にデフォルトに陥ることを明確に示唆しており、その発言はさらにエスカレートしつつあります。

緊急資金繰り措置発動ならば公務員年金の取り崩しさえ実施の予定

足元では21年にも一旦登場したことのある緊急資金繰り措置に着手する話も飛び出しはじめており、給付時期が差し迫っていない「公務員退職・障害基金」と「郵便退職者医療手当基金」などへの拠出を停止する、つまり基金から一時的にせよお金を引っ張りだすといった驚くべきプランも明らかにし始めているため、関係する公務員にとっては落ち着かない日々が続きそうです。
トランプ政権時にはかなり冷静でこれを政治問題化することを在任期間中は避けてきたこともあり議会でこの問題が大論戦となることはありませんでしたが、足元では下院の主導権を握る共和党は民主党がまず今後の歳出削減自体に同意しない限り債務上限引き上げを見合わせると強硬な姿勢を打ち出していることから、とにかくこれを回避させるためにイエレンが広く国民にデフォルト危機を呼びかけ始めているとみるのが順当に思われるところです。

とはいえ現役の財務長官がここまでデフォルトを叫び続けるというのも過去には見当たらないほど異例の事態であり、FRB議長時代でもかなり緩かったイエレンがこれほど行動力をもって動いていることに市場の疑問が高まりをみせています。

バイデン政権の金遣いの荒さは基本的に大きな問題に

議会の承認さえとれれば上限を引き上げて一件落着となるのがこの債務上限問題ですが、バイデン政権が誕生してからは新型コロナの流行など100年に一度しかないような緊急事態に直面したとはいえ金使いの荒さは凄まじいもので、すでに連邦債務は33兆ドル、日本円にして4000兆円超の勢いとなっています。
上限問題以前に完全に使いすぎで、すでに税収でその利子を支払うことすら不可能なレベルに到達しようとしています。

これではどれだけイエレンが頑張ってデフォルト危機を煽っても本質的な問題はバイデン政権の放漫財政にあることは間違いなく、国民の賛同がどのように得られるのかも大きな問題になりそうな状況です。
本邦でも国債の発行額がすでに1000兆円を超えてかなり厳しい状況が続きますが、それでも国の金融資産や対外資産を合計すれば1000兆円は超えているので米国に比べればかなりましであることがわかります。

おそらくここから景気が悪化する局面では、米国は毎回定番となっているドル安政策から対外的に国債の価値を大きく下げることで結果的に債券金額を圧縮する動きにでる可能性は相当高く、ドル円も意外な形で円高方向に動くリスクを考えておくことが重要です。

さらなる問題は米国債格付けへの影響

この問題は米国債の格付けにも影響を与えるものとなることから、金融市場ではデフォルトとともに米国の格下げの問題が大きな注目点となりそうです。
実際オバマ政権時代にはこの債務上限を巡って米国債の格付けが1ランク下がるという大事件が発生しており、今回も最後の泥沼のような戦いに陥った場合、格付け機関がそれを嫌気して米債格下げといった事態に陥ることもいまったく否定はできない状況です。