株式市場はコロナ収束と経済再開のほうを積極的に織り込みにいっているようで妙に楽観的で、米株は半値以上まで戻すという特異な展開を継続中です。

3月に暴落で大きな損失を被ったウォール街のマネージャーやファンド勢がなんとか株価が戻り、米国の大統領選挙に向けて再上昇を示現してほしいとV字回復相場に賭けようとしている気持ちは良く判ります。

果たしてそんな楽観的な相場が早期に戻ってくるのかどうかはかなり疑わしく、劇的な米国の失業者数の激増が先行きを真っ暗にさせようとしています。

コロナ大恐慌では失業者数が1929年の大恐慌を超える可能性

1929年の米国におけるストライキの貴重画像 Photo AP https://toyokeizai.net/articles/-/341346

米国の失業者数は新型コロナの感染が鮮明になりはじめ、相場が暴落した3月からのたった6週間ほどで新規失業保険申請件数が累計で3000万件を超すという過酷な状況です。

2008年からの12年間積み上げてきた失業者の減少と完全失業率の実現がたった1か月半程度で完全に逆戻りし、1933年に記録した25%という失業率さえ凌駕しそうな状況になってきているのです。

市場の予測では今回米国では最大5000万人に迫る失業者が出現する可能性が極めて高く、失業率は過去に例を見ない30%台をたたき出すリスクさえ高まりつつあります。

4人から3人に一人が失業する時代と一口にいいますが、チャートだけ見ているとその実感は全く感じられないものの、実態経済上では酷い不景気が到来するであろうことは間違いなさそうす。

しかも1933年に記録した25%という失業率に比べると、今回の失業者の増加は等比級数的にスピードが速い点も気になるところです。

四半期GDPの縮減数字は結果論ですから出てみないと判らないことではありますが、この失業率の圧倒的な増加は景気の大幅減速を確実に示唆するものであり、そのネガティブインパクトは今を生きる我々が全く経験したことのないものになるということだけは覚悟しておかなくてはなりません。

世界恐慌ではどんな状態だったのかを正確に認識する必要がある

1929年からの大恐慌はすでに90年以上前のことですから、遠い昔の話としてその実態がよく理解されていませんが、非常に印象的な出来事が起きたのはデフレがいきなり進行したことです。

今回の新型コロナでは一時的に一部の商品が手に入らなくなっていますし、食品も供給の危機が出始めていますが、消費財の製造に関しては比較的回復が早いのではないかという見方があり、逆に収入が激減している無収入に陥る人が爆発的に増えたことから、米国をはじめとする主要国の当時の卸売物価は暴落から4年の間で実に4割前後下落しています。

必要なものを最低限だけ購入する経済はまずデフレを引き出すことになったというのは非常に興味深い状況といえます。

また1929年から5年あまりの米国の株価は一旦戻りを試すような動きにはなったものの、結果的にNYダウは1929年の暴落の初動から1934年までに実89.2%下落しています。

次にコロナ起因で暴落が起きたときにそこまでの下落を示現するかどうかは全く判りませんが、3月に起きた30%程度の暴落では大恐慌とは言えず、ここからさらにそれを上回って底値を試す瞬間が現れてもまったくおかしくはないところに我々が今存在していることだけはしっかり認識する必要があります。

最悪の経済状態の示現はここから数年にわたる

1929年からの大恐慌を見ると、結局のところ経済の大停滞は都合3年以上継続することになり、短期にV字回復などまったくしていない点がよくわかります。

AIやアルゴが先導するのか、新型コロナの感染が収束すればいとも簡単に市場が元に戻りV字回復も夢ではないかのような期待相場を現しはじめていますが、これだけ大量に失業者が元の暮らしを取り戻すには相当な時間がかかるのは間違いなく、楽観相場の強烈な修正を余儀なくされる時間は刻一刻と迫っているように思われます。

米国の失業者の推移は実に衝撃的ですが、実は日本でも6700万人の生産労働人口の産業別の構成を見ていくと、コロナ感染が収束しても実に3割近い労働者は元の仕事に戻れない可能性が極めて高くなっており、しかも職を失わなかった労働者でも収入が激減することが予想されはじめており状況は米国並みに深刻です。

なんの理由もなく日経平均が2万円を回復するという不思議な楽観相場が現れたりもしていますが、現実の経済は相当深刻です。

株価は各企業の将来の成長や収益を勘案した現在価値ですから、ここから先の経済が劇的に悪化しようとする中で中央銀行が無理やり相場に介入して価格維持の政策を行うことだけで、株価がもとの上昇軌道に戻りさらに上値を追うことになると想定するには無理があります。

一時的にそうした動きがでることはあるのかも知れませんが、実態との乖離を強烈に修正せざるを得ない状況に見舞われることは覚悟しておくべきようで、株価がそういう厳しい洗礼を受ける以上、為替も相応の影響を被ることはしっかり意識しておかなくてはなりません。