9月1日に発表された米国の雇用統計では、非農業部門雇用者数は8月に前月比18万7000人増加とエコノミストの事前予想の平均値の17万人増よりも上振れる数値となりました。
その一方で賃金の伸びは鈍化し、労働市場の底堅さと鈍化の両方を示す強弱まちまちの内容となってしまいました。
さらに8月の失業率は市場予想の3.5%を上回り3.8%となったことから、市場はこれを嫌気してドル円は一時144.450円まで下落するという案の定下押しの動きとなっています。
ただ今年に入ってからのこの非農業部門雇用者数は速報値ではそこそこの数字になっているものの、翌月改定値がでると下落する状況で、バイデン政権下の国家統計局はなにかを画策して大幅修正をかけてきているのではないかという疑問が市場を駆け巡りはじめています。
毎月のNFP速報値はそもそも当たらない仕組みでできている
米国労働省統計局が調査をして発表するこの雇用統計のNFP速報値は事前に選定された自営業、農業従事者を含まない米国内の事業社約40万社・従業員数約4700万人をターゲットとしているため全米事業者のほぼ30%以上が網羅されていると言われていますが、郵送によるやりとりをしているため速報値は一定期間に戻ってきた数字だけで算定され、しかも季節変動係数を掛け合わせることから回答された実数とは必ずしも合致しない数字が使われて発表されています。
したがってこの速報値はとにかくぶれやすく、長年エコノミストやアナリスト泣かせの指標として有名な存在になっています。
2023年は改定値で軒並み大幅下落修正を継続中
ただ今年に入ってから国家統計局は毎月発表される改定値(翌々月に開示)を2023年年初から大幅に下方修正しており、これが原因で失業率が予想外に上昇しているというアナリストの見方が広がっています。
とくに過去7回連続して翌々月になると下方修正が下されているのは決して偶然の結果ではなく、労働省があらかじめ算定してきた雇用の伸びが過大であったことを大きく修正するために行っているという観測も強まっています。
経済評論家としても有名な証券仲介業・ユーロ・パシフィック・キャピタル社の社長であるピーターシフも同様のことを指摘しており、今回発表された8月の雇用者数18万7000人も来月には大幅に下方修正されると予測しています。
この数値下落の問題はNFPに限らずJOLTSでも顕在化しており、米国労働省はバイデン政権に忖度するようにここからの利上げが進まないように数字をいじりだしているのではないかといったよからぬ話も飛び出しはじめています。
そんな陰謀論的な話があるのかと疑う市場参加者が多いのも事実ですが、このNFPは一週間に新規で一時間でも新たに働いたパートタイム労働者がいれば1名とカウントする緩いもので、そもそもフルタイムワーカーで仕事を失った人が新しい仕事に就くといった状況とかなり離れており、季節変動係数などをいじって数字を過少にすることは簡単な話で、確かになにか作為的な動きが裏で働いていると見るのも一理あります。
雇用面から見るともはや利上げは無理であることを示唆しているのでは
FRBはパウエル議長を筆頭に、ここからの利上げはデータ次第で行うが慎重に実施したいとかなり玉虫色の発言を繰返しています。
市場ではすでに9月の利上げは停止、様子見と織り込んでいますが、雇用関連の指標が労働省の忖度的数値下落のもとでこのまま悪化の一途をたどった場合にはそれを理由にして11月以降も利上げが行われない可能性が高まり、結果的に今年の利上げは既に打ち止めということになる可能性も高まりつつあります。
今年後半、年末までの市場の最大のテーマはFRBが利上げを終了することになるのか、そして来年早々に利下げに転じるのかということに集中しているため国家統計局のこの動きは相当注目を集めることとなっており、市場が利上げ終了をさらに織り込むことになる確率も高まりつつあります。
ここからは9月のFOMCが本当に市場期待通り利上げ停止となるのかどうかが第一段階のポイントですが、それがクリアすれば一段と利上げ終了期待が高まるはずで個別インフレ指標の結果に基づく相場の上下動はこの先も続くことになると思われ、最後は利上げが終了となることに市場は大きな期待をしていくことになりそうです。
実際問題、足元の金利急上昇のお陰で米国の不動産投資家は2023年の住宅購入を45%大幅に減少させており、その減少幅は2008年の金融危機以来最大の落ち込みとなっていることに加え、実需の住宅購入も前年比ですでに31%減少しているので、不動産業界は相当な高金利によるダメージを受けておりすでにさらなる利上げはできない状況に陥っていることが見えてきます。
米国の統計はこれまでも市場状況に合わせて結構改ざんに近い修正をかけてくることがあったので、今回の足元でのNFPの大幅修正は確かになにかを市場に示唆しているとみるのは実はかなり正しい見方なのかもしれません。
引き続き雇用指標の結果とそれを受けたFRBの反応を注視していきたい時間帯です。