5月25日から28日までトランプ米国大統領が令和になってから初めての国賓として訪日し国技館で升席に椅子を置いて大相撲千秋楽を観戦し優勝力士に大統領杯を贈呈するとか安倍首相がゴルフ接待するといったいわばどうでもいい話がメディアを賑わせていますが、金融市場からの視点でみますとそれよりもはるかに重要で注目すべきなのがライトハイザーUSTR代表が1日早く来日して茂木経済再生相と閣僚級会議を実施することです。
ライトハイザーとはいかなる人物なのか
ロバート・エメット・ライトハイザーは現在71歳の米国の弁護士であり、法学博士号を有する通商問題の専門家として知られる人物です。
実は1983年から85年のレーガン政権時に米国の通商代表次席代表を務め、日米貿易摩擦において日本に鉄鋼輸出の自主規制を無理やり飲ませたかなりのハードネゴシエーターとして知られ、当時を知る役人はその名を聴いただけで恐れ慄く存在と言われます。
一説にはこの交渉時に日本の閣僚とそれに仕える閣僚が提出した合意案を紙飛行機に折って話にならんと会議の席上飛ばして見せたという逸話もあるほどで極めて厳しい交渉相手であることは間違いありません。
米中貿易交渉でもトランプから全権委任されて具体的な折衝にあたっているはこの人物で、単純で感情的なトランプとは比較にならない緻密で法律的にも完結する内容を合意文書にしっかり盛り込む超プラクティカルな存在となっているのです。
このライトハイザーは対中交渉の途中経過についても一切迂闊なことは口にしていませんしトランプが楽観論を口にしてもこれまで絶対に同調したこなかった人物です。長年の実務経験の実績から共和党関係者のみならず民主党の議員からもかなり一目をおかれた存在なのです。
日米通商協議の早期決着がゴール
トランプはとにかく日米交渉は早く合意してしまいたいという意向がかなり強く、4月の日米首脳会談にあたって記者に公開された安倍総理との会談の冒頭にも5月の
訪日時に合意してサインできるかもしれないと日本政府側がまったく事前に感知していないことを口にして安倍首相が真っ青になるという一幕もあったようで、自動車と農産品、デジタル貿易の3分野での早期合意が今回の来日でも大きなポイントとなります。
足元では米国はすでに日欧に配慮する形で自動車関税を180日実施先送りを決める代わりに台数規制を締結したいといった意向も米国メディアから漏れ伝わっている
わけですが、茂木大臣はライトハイザーから日本には台数規制は行わない旨を確認していると公言しており、まるで何の問題もないかのような発言に終始しています。ライトハイザー自身は80年代の対日交渉で自動車の数量規制が意味を持たないことは十分に理解しているはずで、果たしてその見返りをどのように要求し対日赤字分を差し引くことを要求してくるのかが大きな見どころになります。自動車輸出の見返りに農産物の関税を全面撤廃するようなことにでもなれば国内農業は壊滅的な状況に陥ることにもなりかねませんが、安倍政権のことですから無理難題を簡単に受け入れてしまう可能性も高く、最近まったく話題にならない為替条項を合意文書に入れる話も恐らく強要されそうな状況で、今週から来週にかけての閣僚級会談の行方が非常に注目されるところです。
中身についてはすぐには合意内容を開示することはないと思われますが、トランプのことですからツイートで一部を開示するようなことがあれば相場にかなり直接的な影響が及ぶリスクは高そうで、とくにドル円は下押しに注意が必要になりそうです。