今年はとにかくポンド以外の通貨ペアのボラティリティが極めて低く、ドル円はとうとう年間値幅8円たらずという、史上最低レベルの動意しか得られないまま年末を迎えてしまいそうな状況です。

すべての通貨の中でも、比較的大きな値幅を維持してきたユーロドルもしかりで、取引妙味のなさを一段と実現しています。

国内では個人投資家の実に8割近くが取引しているドル円については、2016年から相場環境が激変したことが、その動意に大きな影響を与えるようになってきているようで、過去10年や20年といった長期の動きをベースとした、アノマリーもそのまま機能しなくなっているようです。

一体どこに変化が表れているのかに注目してみますと、ここからの相場の動きもかなり予測しやすくなりそうです。

極限まできた中央銀行の下げさせない相場維持策が最大の原因

アベノミクスのスタートで2013年4月から開始となった、日銀の金融緩和もとうとう6年半の長きに渡っています。

名目インフレ率2%の達成は、いつまでたっても到達しないままで、国債の買い入れも日本株のETF買いもすでに極限にまで達するところにさしかかっています。

結果的に株式市場は、本来相場がもち上げたり下げたりする流動性が全く損なわれることになってしまい値幅調整がなくなり、延々と日柄調整を消化するような動きになってしまっています。

今年のドル円を考えると、正月早々にフラッシュクラッシュで104円台に突入したものの、8月に同様のレベルを再度つけに行っただけで、底値はこのレベルで異常とも思えるほど底堅く、上値も4月につけた112円台を簡単に超える状況ではない相場が延々と続いています。

結局2015年から4年も続く月足レベルでの三角持ち合いは今も延々と続いており、これがブレイクされないかぎり来年もさらに値幅の狭い状況が続きそうです。

ドル円2015年から延々と続く月足レベルの三角持ち合い

足元では米国のFRBは3回連続利下げを実施し、さらに月額600億ドルベースというほとんどQE4に近い資産買い付けを行っています。

ドル円は本来下がってもいいはずなのですが、GPIFをはじめとするPKO軍団が下値をかなり買い支えることから大きく下げない相場が、今の動きを形成しているといっても過言ではない状況です。

動かない日本株に投機筋の投資意欲が著しく減退

この日銀が買い支えて下げさせない相場は、米国の株式市場も似たようなものではあるのですが、ETFの買い支えは世界的な相場で見ても中央銀行の介入具合はあからさまです。

海外のファンド勢はこうした中央銀行が人工的に作り出す相場を強く敬遠することから、2013年には年間で15兆円もの資金が流れ込んできた海外勢の日本株買いは、非常に限定的になってしまっています。

またこの当時は、円キャリートレードで資金も日本円で調達し、それと並行してヘッジのためにドル円の買いを行うのが海外勢の定番の取引となっていました。

これが今年あたりはほとんど見られなくなったことから、株価に合わせてドル円が上昇する相場というものが完全に消滅したことも、ドル円の動意を弱める材料になっているようです。

さらに、ヘッジファンドのロング&ショート戦略と呼ばれる強い株を買って、同額の弱い株を売るという動きに、S&P500と日経平均が選択されるようになっていることから、コンスタントに日経平均が売られる事態になっているのも、株価の上昇を著しく抑える結果になっています。

2016年以降円キャリーからユーロキャリートレードになったことも大きな要因

2015年までは低金利を理由に円キャリートレードというものが盛んに行われてきました。

しかし2016年以降は、マイナス金利であるユーロを調達して取引するユーロキャリートレードの方が盛んになったことも、ドル円の上昇下落をまったく実現させない要素になっているようです。

日本株売りが出ても、為替が株式市場に連動しなくなっているのはこのせいであると言われており、上昇もしないが下落もしない相場が延々と続き、ドルと円の相関性が強まっているのも、こうした変化が微妙に影響しているのは間違いなさそうです。

本邦機関投資家は外債購入にかなり積極的な状況

加えて本邦の機関投資家、金融機関などは金利がないことから、国内の債券購入をあきらめて広範に外債を為替のヘッジ抜きで購入する動きに出ていることが、ドル円に対する需要が年間を通じて強くなっている点も相場の大きな構造変化になっているようです。

特に生保やGPIFはドル円が下がると一斉に買い付けするものの、逆に109円を超える高値では売りに回っているという話もでてきており、機関投資家自体が安値買いの高値売りという循環を積極的に行っているのも、ドル円の値幅を縮小させる大きな要因であるようです。

2016年以降、本邦企業の海外M&Aが盛んになったのは記憶に新しいところですが、こうしたM&Aは必ずしもうまくいっていないようで、足元ではソフトバンクグループが積極的な投資を行う以外はその数が限定的になっているのも、ドル円の大幅な上昇を抑える材料になっている状況です。

こうなると、このままでは来年も狭いレンジでの相場が続いてしまいそうな嫌な予感がします。

三角持ち合いを抜け出ることになれば、それなりの動意が得られるようになる可能性が高く、上に抜けるのか下に抜けるのかが注目されます。

ただドル円は、1985年のプラザ合意以降きわめて強く政治の影響を受ける通貨ペアとなっていますから、2020年の米国大統領選挙に向けてさらなるドル安を志向するトランプ大統領の影響を受けて、下抜けするリスクも高くなりそうです。

10年1律に見えるドル円相場も、直近の市場環境は大きく変化しつつあるようです。

FXで利益を獲得しようとする個人投資家も、こうした変化に対応した取引方法を模索し実践することが求められていることがわかります。

2020年はさらに変化に対応できる取引姿勢が必要になりそうです。