年初からいきなり、米国がイランの革命防衛軍の司令官をドローンで殺害するという驚愕な事態が発生したことから軍事的な戦闘状態に陥り、周辺地域を巻き込んだ本格的な戦争に発展するのではないかという危惧の念が市場に広がりましたが、どうやらそうした最悪の状況だけは米国、イランともに避けることになりそうで相場は落ち着きを取り戻しています。

しかしその一方で米国は、イランに対して徹底的な金融戦争を仕掛けようとしており、イランの通貨リヤルはかなり厳しい状況に追いやられています。

ある意味で21世紀の戦争は、地上戦や空爆といったリアルな戦争から金融の世界での戦争へとシフトしつつあり、地政学リスクもこれまでとはかなり異なる領域のものになろうとしていることがわかります。

自国通貨が崩壊寸前のイランでは信用不安が増大

イランは関裕産出国であるにも関わらず、元々非常に困難な経済状況に直面しています。

物価は実に年間36%も上昇しており、典型的なインフレに苛まれる状況となっています。

ここに米国がさらに経済制裁を実施していることから、産油国であるにも関わらずガソリン価格が急騰するなど、国民生活は想像以上に危機的な状況に陥っています。

イラン政府は自国通貨のデノミを行うなどして対応していますが、リヤルの価値は下落中であり株価も地下も下落がとまらず、信用不安は日々増大しているのが実情です。

外貨も預金封鎖で1割程度しかアクセスできない厳しい状況

イラン政府は日本円にしてほぼ9.3兆円程度の外貨準備を持っていると言われていますが、そのうちの既に90%は米国による預金封鎖などの影響からアクセス不能、つまり資金の支払いにまったく利用できていない状況で、米国の経済制裁は予想以上にイラン経済に大きなダメージを与えていることがわかります。

実際の軍事的な衝突では、いくら戦争をしてもなかなか相手国の状況を根絶やしにすることはできませんが、金融戦争によりイランのリヤルを崩壊させることは現実性の高いものとなっているから、米国はこの1点に集中してイランの政権を崩しにかかる動きに出ているようです。

政府に対する不満で国民が政権を倒す動きを助長する米国の金融攻撃戦略

バグダッドでの反政府デモ Reuters https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/11/post-13431.php

国民は当然反米感情を高めているわけですが、それと同時にイラン政府に対する怒りも高まっており、下手をすると国内から政権を打倒する動きがでかねないところまで事態は深刻化しています。

米国が狙っているのはまさにこれで、イランを内部から崩壊の動きであり、金融戦争を仕掛けることでさらにイラン政府が窮地に立たされ、イラン国民によって終焉に至らしめることが今回の米国による金融戦争の大きな狙いになっていると言えそうです。

米国自体は日本円にして2200兆円といった莫大な債務を抱えていますから、無闇に戦争で借金を増やすわけにはいきませんし、大統領選挙を控えて米国の兵士に莫大な死傷者を発生させるわけにもいかず、そもそも戦争嫌いのトランプ大統領はこのような経済、金融部分での戦争をしかけることでイラン政府を倒そうとしていることが見えてきます。

ただイランは、米国に対してサイバー領域を含めて報復テロを仕掛けてくる可能性は排除できず、地政学リスクも90年代や2000年代にあったものとは大きく異なろうとしていることを理解する必要がありそうです。

足もとの相場では、確かになにかあればすぐにアルゴリズムがニュースのヘッドラインに微妙に反応して相場がリスクオフに動くことになりますが、その一方で回復も非常に早くリスクオフだから売りで対応すればいいというほど単純な相場ではなくなっていることを忘れてはならない状況です。

こうした市場の変化についても、しっかりと事前に認識しておくことが大切になってきています。