6月20日、米国ワシントンの連邦地裁はジョンボルトン前大統領補佐官が23日に出版しようとした回顧録と称されるトランプの暴露本に対する差し止め請求を棄却し、予定通り出版されることとなりました。

当初この本の内容は、国家の機密情報が含まれていないと確認するための出版前の原稿チェックが十分に行われていないとの主張で提訴されたものです。

地裁の判断としては、ボルトン氏が結論が出る前に出版前の精査プロセスを中断し機密保持契約の義務に違反し、機密情報を開示することで国家安全保障を脅かした可能性が高いとの見方を示したものの、米政府の出版差し止め請求自体は棄却するというなかなか微妙な内容となっています。

こうしたことから米国でのこの本に対する関心は極めて高くなりつつあり、すでに発売前からベストセラーの売れ行きが確認されています。

こうなると書かれた中身を巡ってトランプの大統領選挙に影響がでることになるのかどうかが非常に気になるところです。

もともと全くトランプと発想の大きく違うボルトン

Photo Bloomberg https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-22/QCB2YQDWLU6F01?utm_source=twitter&utm_content=japan&utm_campaign=socialflow-organic&cmpid%3D=socialflow-twitter-japan&utm_medium=social

このボルトンなる人物、H・Rマクマスター安全保障担当大統領補佐官解任後にトランプ自身が任命した人物で2005年からブッシュ政権時に元国連大使に任命された肩書を持つ人物ですが、それでも昨年9月にトランプとの対立が激化し結局1年半で突然辞任を余儀なくされていますが、事実上の解任という見方が非常に強いのが実情です。

狂犬の異名をもつマティス前国防長官をもってしても悪魔の化身と呼ばれた人物ですから、いかに超強硬派的存在であったのかが判るものですが、国務省で外交安全保障の専門家としてキャリアを積んだ実務者であるボルトンは思い付き、直観重視のトランプとは大違いの意外に緻密な人物で、在任期間中は北朝鮮を巡ってもアフガニスタンを巡っても全く政策の見解がトランプと折り合わず相当な対立を招いたことだけは間違いなさそうです。

イェール大学で法律を学びその後大学院で博士号を取得しているボルトンは、みかけや言動とは異なりかなり緻密な思考の持ち主であると言われますが、そのボルトンが憤懣やるかたない状況を粒さに記した回顧録ですから相当なインパクトがあることは間違いなく、果たして有権者がこれをどう評価するのかに市場の関心が集まりつつあります。

表面的な外交姿勢と実際の言動が悉く異なるトランプ

この本の中でもっとも注目されつつあるのがトランプの公式的な対中姿勢と大きく異なる言動の問題です。

まず、習近平に対し2020年の大統領選挙で自分の勝利を支持する様に要請した話であるとか、習近平の在任期間撤廃を強く支持した話、さらに人権問題で大きな波紋を呼んでいるウイグル人の強制収容所についてトランプが逆に習近平にその開設を勧め、実際の対応を賞賛した話などがすでに大きな問題になりはじめています。

もちろんこうした話はどこまで事実なのかという真偽のほどが大きなポイントになりそうですが、時間的にはごく最近の話でありどう見てもボルトンが話をすべて捏造したとは考えにくいだけに、今後この中身を巡っては問題が発生する可能性がではじめています。

暴露本が支持率には影響を与えないという不思議な現実もこれまでトランプの暴露本は政権発足当時や、その後のトランプに対する閣僚等の発言取材からまとまった本など数冊が登場しそのたびにベストセラーとなっていますが、不思議なことに相当衝撃的な内容であっても支持率を大きく下げることには寄与しないという現実があります。

今回のボルトンの暴露本は実際に政権に従事し、トランプと最も近いところで働いていた人間の暴露回顧録ですから信ぴょう性は著しく高いだけにこれまでのものとは異なる可能性も出てきているのは事実ですが、すでにトランプが二枚舌であることは国民にも知れ渡っており、それでもジョーバイデンよりましという判断になれば大統領選での再選もまだ十分にありうる状況で、ここからの支持率の変化に注目していきたいところです。

金融市場ではバイデンが勝利すれば株価は大幅に下落し、ドル円はドル安方向に動くとする見方が強まっているだけに、この秋の大統領選の動きは非常に気になるもので、それだけにボルトン本がどれだけ影響を与えるのかに注目されつつあります。