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ここへ来て金融市場では米ドルが基軸通貨の座を追われる、もしくは自らその座から降りる時代がかなり迫って来ているのではないかという議論が一段と高まりを見せています。

8月初旬、ZeroHedggeにIs The Dollar Standard Slipping Out Of Control?という記事が載って話題になりました。

ドル本位制はコントロール不能になっているのではないかというのが記事に要旨で、これまでドルが基軸通貨だったのが大きなメリットをもたらしてきた時代が長く続いてきたので、それが当たり前の世界標準とみられてきたものの、米国経済にとっては逆にその状況が逆に大きな負担となってのしかかり、雇用の拡大を制限する要因となり貿易赤字の押し上げや連邦債務の増加、果ては金融バブルを作り出す重大な要因になっていることから、米国は結局のところ米ドルの基軸通貨の座を自ら離脱しなくてはならなくなるのではないかというかなり辛辣な見方です。

その一方で、米国の外側からドルによる基軸通貨崩しの動きも顕在化し始めていて、その先兵となっているのが米国と激しく対立している中国の動きです。

中国人民銀行のレポートが実に興味深い内容

中国人民銀行・PBOCの投資銀行部門が先ごろ、金融関係者にとってはかなり興味深い内容のレポートを公開しています。

それによりますと、中国の各銀行はこれまでのSWIFT国際銀行間金融通信協会の資金送金システムを利用せずに国際送金を行うことを強力に進めているようで、昨今の米中の対立激化の結果として、中国の銀行に米国が制裁を加えるような事態に陥った場合に備えて米国を利用しない形での資金送金の仕組を検討すべき状況になっていると同レポートは指摘しています。

米国との対立が進む中国にとってはもはやこれは遠い将来の研究課題ではなく足元の課題であり、それを一刻も早く克服しようとする動きを強めていることが強く感じられる状況です。

中国によるSWIFTを利用しない送金システムは着実に進んでいる

中国ではこのSWIFTを利用せずにCIPS・通称シップスと呼ばれるシステムを開発し利用しはじめており、すでに2019年には1日あたり1,357億元(米ドル換算では194億ドル)を処理した実績を誇っています。

このCIPS・Cross-Border Inter-Bank Payments Systemは、人民元建ての貿易・投資に関する決済を促す金融インフラとして、2015年10月に中国人民銀行自らが開発導入したもので、クロスボーダー人民元決済(貨物貿易、サービス貿易、直接投資、融資、個人送金など)にかかる顧客送金およびインターバンク決済が可能となります。

一帯一路戦略の履行と並行して利用国もかなり増えており、ロシアをはじめアジア圏では想像以上にこれを利用する国が増加中です。

デジタル人民元の発行が進めばこれをさらに積極的に利用していく可能性は高まりそうで、世界的に実需の面でもドルの需要が大幅に変わる可能性を示唆する内容となっています。

下の日経が開示したチャートをみてもその取引件数、取引量ともに確実な実績を上げ始めており、これが送金標準となる時代も決して夢ではなくなりつつあることがわかります。

Data Nikkei Asian Review https://asia.nikkei.com/Business/Markets/Rise-of-the-yuan-China-based-payment-settlements-jump-80

現状ではこれがSWIFT崩しにはじまって、米ドルを基軸通貨の座から引き下ろすほどのインパクトはまだ実現できてはいませんが、米国外の国々が米ドルを利用しない形で経済や貿易を進めていく時代が一段と近づいていることを感じさせられます。

今年3月の新型コロナ起因での相場の暴落では、リスク回避で金よりも米ドルのキャッシュを求める動きが異常に強くなったのは記憶に新しいところですが、この先そうした状況が起こらない可能性はありそうです。

何より米国自体がドル覇権の座を自ら辞するタイミングが、本当にやってくることも十分に想定される状況になってきています。

こうなるとドル安という現象も一時的なものではなく、強いトレンドへと発展することが容易に想定できることになりますから、この動きは常にチェックしていく必要がありそうです。

ドル基軸通貨制度が崩壊したら金融市場はお仕舞であるといった固定的な発想をされる方が多いのも事実ですが、何が起きるのか判らないのが金融市場です。

75年余り続いてきたドル基軸通貨制度に大きな変更が訪れること、そして金融市場がどう変化していくかについてはそろそろイメージし始める必要がありそうです。