1月31日、FOMC政策決定の発表を前に、いつもならあまり動きのない米株市場に大きな衝撃が走りました。
そのきっかけとなったのが、ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)が2023年10~12月期における業績が予想を下回る最終赤字となり減配を公表したことで、同社の株価は一気に38%もの下落を喫することになりました。
前年同期に1億7,200万ドルの黒字だった決算数字が、この四半期で2億5200万ドル(日本円にして370億円)もの赤字に転落したわけですから、市場が騒ぎ立てるのも無理はありません。
NYCBは、昨年3月のシグネチャーバンクの破綻を受け、一部資産を同社から引き継いだ救済側の銀行だったはずですが、1年が経過し今度は自らが破綻を余儀なくされるような立ち位置に変わってしまったことになります。
NYCBの業績悪化の原因は、ずばり商業用不動産向け融資を中心とする保有資産の急速な劣化にあります。
ここから発生するであろう債券の焦げ付きへの貸倒引当金は、すでに前年同期の4倍にあたる5億5,200万ドルにものぼっており、米国の商業用不動産市場の不振はより深刻化していることが窺えます。
NYCBの株価下落は、当然市場全体のリスクオフを引き起こすこととなり、ドル円もあっという間に146円割れ寸前のところまで下落するという異様な展開となりました。
不動産業界の不振、急ピッチな利上げと新型コロナの影響が要因か
米国では、2020年にほとんどゼロだった金利が急ピッチで5.5%台まで上がったわけですから、金利の影響を直接受ける不動産業界には深刻な影響が及ぶことは間違いありません。
特に米国の不動産業界は、新型コロナの影響により大手企業の多くがリモートワークへシフトしたことも、需要が大きく減少する要因となっているようです。
昨年の米地銀破綻の影響はもっぱら米国内の銀行に限られましたが、不動産が絡む今回の問題はドイツ銀行や邦銀にも深刻な影響を与え始めている状況です。
赤字転落で追い込まれるあおぞら銀行
米国商業不動産市場の悪化は、米国内のみに留まらず国外の銀行にも影響が及んでいます。
ドイツ最大手として知られるドイツ銀行は、すでに大きな赤字を抱える状況に陥っていますが、影響は邦銀にも及んでおり、市場の困惑は一気に高まりを見せています。
2月1日、あおぞら銀行が2024年3月期の連結業績予想を280億円の赤字になる見込みと発表したことにより、株価は大幅に下落しました。
前期は87億円の黒字であったことを考えると、赤字額の規模は想像をはるかに上回るもので、米国商業用不動産への融資ビジネスが暗礁に乗り上げている状況です。
同社は2009年3月期以来、15年ぶりの最終赤字となっており、第3四半期配当と期末配当予想も無配とすることを決めていることなどから事態の深刻さが窺えます。
昨年の米国地銀破綻は米国内だけの問題に留まりましたが、今回の商業用不動産ビジネス問題における影響は、ここからまた世界および国内の銀行経営にも波及していくことが予想されます。
FRBの急激な利上げで銀行保有の米債含み損は過去最大に
FRBは、インフレを理由に2020年までほぼゼロだった金利を、わずか1年半足らずで5.5%レベルにまで引き上げました。
それゆえ、ゼロ金利時代には安全資産と言われていた米債を大量に購入した米国の金融機関や国内の銀行勢は、相当な含み損を抱える結果となってしまいました。
昨年のシリコンバレー銀行(SVB)のように、預金者が払い戻しを求めて金融機関へ殺到する「取り付け騒ぎ」が発生すれば、米国債保有の含み損はそのまま表に現れることになるため、事態はさらに悪化することが予想されます。
パウエル議長はFOMC後の会見で、3月の利下げについては実施の可能性がないことを断言していますが、ウォール街では米銀の救済支援として最も効果的なのは、資金的な支援ではなく短期間での大幅利下げであると見るアナリストも多いため、結局は早い段階で利下げを実施せざるを得ないのではないかという観測も強まっている状況です。
金融市場では、突然大きな問題が表面化しそれが相場を大きく動かす材料となることはよくありますが、今回の銀行経営不安問題もまさにその状況となるのかが注目されるところです。
足もとでは、市場は一旦落ち着きを取り戻していますが、その状態がいつまで継続するのかも気になるところです。