7月3日、米国の独立記念日の休日を避ける形で1日前倒しに発表された6月の米国雇用統計は市場予測の平均を大幅に上回る形となり、NFP(非農業部門雇用者数)が事前予想の平均にあたる300万人増加に対して480万人増加となり、失業率は事前予想12.5%に対して11.1%に低下しました。

雇用統計は2カ月連続の大幅改善となり、これをうけてトランプ大統領は早速会見を行い新型コロナウイルスの感染拡大によって損なわれた景気の力強い回復を示していると述べましたが、6月中盤から再発している米国内での新型ウイルス感染拡大の影響はこの数字に含まれておらず、必ずしも先行きが楽観視できる状況ではないことも確かで、為替市場はほとんど反応しないままNY市場の取引を終える形となっています。

過去数カ月の統計では、失業者と分類されるべき多くの回答者が雇用されていると誤って分類される問題が生じており、その信ぴょう性が問われる状況となり、労働省の労働統計局・BLSは今回この問題をおおむね修正したと説明しており、実態にかなり近い数字となったことが考えられます。

Photo 日テレNews24 https://news.livedoor.com/article/image_detail/18512157/?img_id=25655064

短期間に雇用が劇的に回復したのは娯楽・ホスピタリティーと小売り

しかし、この短期間に500万人弱もの雇用が劇的に回復したというのも俄かには信じがたいものがあります。

当局の発表によれば、娯楽・ホスピタリティーと小売りの分野で再雇用が活発化し、新型コロナ感染で真っ先に首切りとなった業界が経済再開を受けて真っ先に再雇用に乗り出したことが窺われます。

雇用の再拡大分野 ZeroHedge

ただ逆の見方をすれば、また新型コロナ感染が拡大し都市部が閉鎖されるような事態に陥れば簡単に首切りが起きることになり、劇的な回復とはいえ手放しでは喜べない状況が続いているようです。

Data Bloomberg

米国内では大問題になっている人種的なマイノリティと上司の雇用環境は全く改善していないようで、白人男性より悪い状態が続いている状況です。

また、黒人の失業率は5月の16.8%よりは若干改善して15.4%となっていますが、平均値よりも高く推移しており6月の白人の10.1%よりもその差が広がるという厳しい状態が継続中です。

家計調査によりますと、6月には280万人余りが恒久的に職を失い前月と比べて58万8000人増え、

2009年初め以来の大幅増加に陥っているという現実も見逃すことはできません。

さらに平均時給はもともと賃金の安い業界での仕事が増加したことから前月比1.2%減少しており、個人消費には少なからず影響を及ぼしそうな状況です。

各国ともに政治家は短期間での経済の再成長を示唆

米国トランプ大統領の発言は非常に象徴的ですが、どこの国も経済の再生と景気が短期間に回復するであろうことを口にする政治家が多く、政治的にはすでにどれだけ新型コロナの感染が再拡大しようとも、その事実に基づいて都市部を閉鎖する動きなどができないことがよく見えてきます。

国内でも東京では新たな感染者が拡大しても厳重警戒とはいいながら、すでに非常事態宣言は出せないのが実情で穿った見方をすればもはや各国とも放置でやり過ごすしか方法がなくなってきていることが見え始めています。

ワクチンの開発にも期待が集まるところですが、2003年のSARSですら17年たった今でも完治するワクチンはできておらず、HIV感染も同様の状況で短期間で劇的に完治する薬が登場して世界が変わると期待するのはもはや無理であり、そのあたりも冷静に見極める必要がでてきているようです。

つまりこのままでいけば感染第二波、第三波は確実に到来することになりそうで、それに伴う経済的なダメージも確実に起こることを覚悟しておく必要がありそうです。

NYダウの将来的EPS見通しは下落の一途

米国の雇用状況は一応改善傾向にはあるものの、これがダイレクトに景気の回復につながるかどうかはかなり怪しく、新型コロナをもろともせずに上昇を続けている米株がどこまで突っ走れるのかにも大きな疑問が高まりつつあります。

Data ZeroHedge

上昇の伸びはすでに削がれ始めているものの、依然として高値圏で推移しているNYダウに関してはここから12か月先に向けての採用銘柄のEPSはどんどん下落していくことが予想されており、これまでの株式相場のことを考えればここから永続的に株価が上昇軌道に乗ったままではいられず、ごく近い将来に収益面から反転下落を余儀なくされる時間が刻一刻と近づいていることが見えてきます。

米国の個人投資家は引き続きロビンフッドやチャールズシュワブでの取引を続けていますが、過去の平時の相場でも彼らはほとんど利益を確保してこれなかったのが実情で、ここから相場が大きく反転下落することになれば当然損失を被ることも予想されます。

為替市場だけはこうしたクリティカルな現状をしっかり認識しているのかまったく迂闊な動きをしなくなっているところがなんとも気になる状況です。