3月29日、英国議会では大方の予想通りメイ首相によるEUとの事前調整離脱案が3回目の登場でまたも否決されることになり4月12日に向けて一段と合意なき離脱、つまりハードブレグジットの可能性が過去にないほど高まりを見せています。
為替市場では合意なき離脱なら激しくポンドが売られるとみる向きが売りを積みあげ、逆に寸でのところで離脱回避ないし延長決定で大きくポンドが買い戻される方向にかける向きもありもっぱらポンドの動きがブレグジットの最大の関心事となってしまっています。しかしその陰に隠れる形で非常に危惧されるようになりつつあるのがロンドンに依然として集中している金融デリバティブの仕組への多大な影響で、ここへ来て意外な落とし穴になる危険性が高まりつつあります。
ロンドンに集中するデリバティブの清算機関
ロンドンシティに拠点を置く大手の金融機関は英国の離脱を見越して一部のオペレーションを既に英国外に移動させるといったリスク回避の措置をとっているところ
も見られるようで一応ハードブレグジットといった最悪に事態に備える動きは堅持かしているようです。
しかし上場先物を除く金融派生商品や金利スワップ、CDAなど店頭デリバティブ取引の清算機関のほとんどすべてが依然としてロンドンに集中している点はあまり市場でもしっかり認識されておらず、この領域に不測の事態が発生することが危惧されはじめているのです。これはそもそも2008年のリーマンショック時にデリバティブ取引がきわめて不安定な状況に陥ったことから、世界の金融当局が挙って店頭デリバティブ取引を清算機関を通じて行うように義務付けたことに起因するもので、結果その機関はこの10年でロンドンに集中してしまっているのです。
店頭デリバティブ元本資金が不安定になるととんでもない事態に
店頭デリバティブの清算機関は本来契約解除の3か月前にはクライアントに通告することになるのですが、足元の状況のように突然合意なきEU離脱が決定して即日履行となるような場合には事前通告ができなくなることからいきなりこうした機関が窮地に立たされることになるのです。現状ではロンドンで扱う店頭デリバティブの想定元本資金は日本円にして6000兆円を超えるとされており、リーマンショック時の6200兆円に迫る規模ですから、これがなんらかの問題で機能しなくなった場合には非常に危機的な状況に陥る可能性が高くなります。
現状ではEUはロンドンのデリバティブの清算機関を守る措置をとると公約していますが、なにしろハードブレグジットというものはだれも経験していないだけに、想定外の問題が起きてデリバティブの清算がうまくワークしなかった場合には甚大な被害を覚悟しなくてはならなくなる点がかなり心配されるところです。
またデリバティブというと非常に嫌な予感がするのがコメルツ銀行との合併を探り始めているドイツ銀行の存在でこの銀行が抱えるデリバティブ業務に大きな影響がでるような最悪の事態に進展するようなことになれば欧州発で前代未聞の金融危機に陥るリスクがまさに今目の前に現れるかもしれない瀬戸際にあることは相当意識しておく必要がありそうです。
ECBのドラギ総裁はEU首脳に対して、英国が合意なき離脱に陥った場合市場はそのリスクを完全に織り込んでいないと警告しているようですが、まさにこのインタンジブルな部分で金融市場に発生する影響が相場にもたらすリスクを真剣に考えるタイミングに差し掛かっていることがわかります。
こうなるとハードブレグジットは単なるポンドの下落だけでは済まない大問題になることもありうるという点を為替のトレーダーもしっかり認識すべき状況ではないでしょうか。