Photo Asahi.com https://www.asahi.com/articles/photo/AS20190707001032.html

イランの核合意破りの状況が止まらず、米国だけがしきりにイランへの警告を続けており、地政学リスク的にはかなり危ない状況になりつつあるわけですが、その割には金融市場は一気にリスクオフ相場になるわけでもなく米国FRBパウエル議長の議会証言のほうがよほど相場に大きな影響を与えるという不思議な状況に陥っています。これまでの中東情勢の経緯から考えれば円が買われるなど相当なリスクオフの相場展開になっても不思議ではないのですが、どうも足元の相場はそうはならないようで、大きな変化がみられます。

イラン核合意破りはなぜそんなに大きな問題なのか

今回イランが破ろうとしている核合意は2002年にイラン国内のウラン濃縮施設が発見されたことからこの国が核兵器を持てないように米英仏独中ロの6カ国とEUが締結した合意でイランが15年間、核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを製造せず貯蔵濃縮ウランや遠心分離機を削減する見返りとして、対イラン制裁を緩和するというのが主な内容となっていたわけですが、昨年5月に突然トランプ大統領はこのイラン核合意からの離脱を表明し、イランに制裁強化を迫ることで核保有国にならないことを強く求めている状況です。

一方イランの方もなぜここまで執拗に核合意破りに動くのか真意がもう一つよくわからないところがあります。原子爆弾をつくるのに必要な量の濃縮度90%のウランを生成するまでにはかなりの時間がかかることが予想されますが、ウランの濃縮度が従来の3.67%から5%に上昇しても飛躍的にそのレベルが上がるわけではなく、今ここでこのレベルを無理にでも上昇させようとする意図は正直なところよくわからないのが現実です。

損得勘定から声を荒げられない欧州、ロシア、中国勢

米国だけがイランの核合意から離脱して厳しい対応を同国に迫っているわけですが、欧州諸国もロシアも、さらに中国にとってもイランから経済的利益を獲得している関係上イランと決定的な関係が崩れることはすこぶる具合の悪い話であり、足元でイランが核合意の上限を超えて、ウラン濃縮度を引き上げると発表しても、各国ともに明確に反対する姿勢を公にすることすらできない非常に中途半端な状況である点もこの状況に不思議な雰囲気を醸し出しています。

トランプ自身はかなり戦争嫌いのようでイランへは制裁を科すと脅かすことでどこかで北朝鮮と同様に対話を実現したいという腹積もりがあるようですが、当のイランのほうは全く意に介していない状況のようで、ここからこの問題が本当の戦闘行為に発展しないのかどうかが大きく注目されるところです。

過去の中東情勢のケースなら石油価格は大きく跳ね上がり相場は株も為替もリスク相場一辺倒になったわけですが、足元では米国にシェールガスが出現するようになりエネルギーのリスクが極めて低くなっていることもリスクオフ相場に動かない大きな理由の一つになっているようです。

過去と大きく変化し始めている相場の反応

またアルゴリズムの台頭で決定的な状況が示現してはじめて相場が動き出すというのも最近の市場の一つの特徴になっているようにも思われます。したがってイランと米国が一戦交えることになったというヘッドラインが躍ってはじめて相場は騒ぎだす可能性もあり、ここからの動きにはかなり注意が必要なようです。国内ではほとんどイラン問題は大きなテーマになっていないわけですが、実は日本にとっては石油の問題は相当リスクの高い材料であり楽観視は禁物な状況です。