Photo Bloomberg https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-09-07/QGAXPSDWX2PS01

いよいよ米国の大統領選挙戦が佳境に入ってきていることから、トランプの中国叩きがかなり激化し始めています。

親子ともに中国べったりの民主党バイデン候補とのコントラストをより鮮明にするために、中国との経済関係を大きく縮減させる旨の発言を記者会見で発表し、よりバイデンを追い込み中国憎しの風潮を有権者に後半に広め支持を得ようというのが、トランプ陣営の大きな戦略になってきているようです。

トランプ大統領は、自国で必要とされる重要な製造品は米国内で生産することをさらに加速化し、メイドインアメリカ税控除を導入し、雇用を米国に取り戻すと名言しはじめており、米国を捨てて中国などで雇用を創出する企業には関税を課すとさえ言い始めています。

ナショナリズムの強い米国民にとっては、対中国に厳しい姿勢を打ち出すことは結構うける材料となっているようで、クリントン政権からオバマ政権まで中国べったりであらゆる中国の振舞いを許容してきた結果が現状であるだけに、このうちだしは想像以上にバイデン陣営を追い詰めることになりそうで、ここへきてそれがますますエスカレートする状況になってきているのです。

米中経済がデカップリングなら中国の潜在成長率は3.5%にダウンという試算も

米国が中国と袂を分かち経済的関係を最小化し、いわゆるデカップリングと呼ばれる切り離し状態が実現した場合、ブルームバーグエコノミクスの試算では中国の潜在成長率は3.5%にまで落ち込むとされており、米国と経済的関係が遮断されることは中国にとってもかなりの痛手となることが予想され始めています。

これまではこうした試算がでても現実のものになる可能性は低いと考えられてきましたが、トランプの強硬姿勢ではまったく架空の話ではなくなりつつある点が非常に危惧されるところです。

さらに日本や韓国、アジア諸国などの同盟国がこうした米国の動きに追随して中国との経済的関係を断ち切るような動きをすれば、なんと中国の年間潜在成長率は1.6%にまで下落するといった厳しい試算結果も出てきている状況です。

ただ、日本や韓国がそうした動きに現実的に同調できるかどうかはかなり難しく、ASEAN諸国の中ではインドネシアが米中の対立に巻き込むなと主張しはじめており、米国の同盟国が横並びでそうした対中強硬姿勢を貫けるかどうかは微妙な状況で、ややもすれば米国との関係がこじれかねないところに向かいつつあるようです。

中国側からの報復措置の実施も深刻な事態に陥る可能性

ここまではトランプが描く一方的な対中強硬姿勢の実施ということになり、さすがに注目も指をくわえて見ているわけにはいかないことは容易に予想され、とくに金融面で中国が米国に攻撃をしかけた場合相当大きな影響がでることも予想されはじめています。

それが中国が現在世界で日本の次に大量保有する米国債の問題で、中国共産党機関紙・人民日報の系列として有名な環球時報は米中間の対立激化で、中国が保有米国債のボリュームを段階的に削減する可能性があるといった専門家の見通しを掲載しています。

しかもその金額にまで言及しており米国債の保有残高は8000億ドル、つまり2程度まで減少する可能性を具体的数字で示唆しています。

米債の激しい売りは米債価格自体を下げることになり、大量保有国の中国自体も大きな損失を被ることになることから、これまではそんなことは絶対しないはずという見方が一般的でした。

しかし、中国側のメディアが金額まで示唆して売却の意向を完全に脅かすように掲載しはじめたのは現実性が高まりを見せていることを示しており、決定的対立が起これば中国がすぐに行動に移す危険性があることを強く感じさせられます。

米国債は外人保有率が高いことから売りの強まりを制御できい危険性も

日本国債の場合は米国債とその状況が大きく異なりほぼ92%超が国内での保有であり、しかも日銀がすでに47%強、銀行、生保、年金などが42%超を占めていますから、海外勢の激しい売り浴びせにあっても突然の金利の上昇に見舞われるリスクはほとんどない状況です。

しかしながら、米国債は外人の保有比率はひところの50%超から41%程度と下落はしていますが、全体の4割以上は外勢の保有で中国の米債売りをきっかけにして日本以外の国の保有者が一斉に売り浴びせを行うような場合には当然価格は下落、金利は上昇したといえFRBがYCCと称して徹底的な買い向かいをしたとしても金利をコントロールするのは相当難しい状況に陥るリスクが高まります。

トランプ政権下ではコロナ禍の問題から莫大な財政支出の原資をすべて国債に依存していて、中国の出方次第では米国の金融市場が大きなダメージを食らうことになる危険性は考えておく必要があります。

トランプ大統領がこうした経済戦争が本格化した場合には金融市場に重大な影響が飛び火する危険性は高そうで、そこまで覚悟を決めて対立することになるのかどうかの真意が非常に気になるところです。