ECBのドラギ総裁は18日ポルトガルのシントラで開催されたECBの年次会議において、改善がなくインフレ率が持続的に目標に戻る動きが脅かされれば、追加的な刺激が必要になると発言し、重ねて政策金利の一段の引き下げと副作用抑制措置は、依然としてECBのツールの一部だと述べたことがメディア報道で伝わってことで同日のロンドンタイム、ユーロは大きく売られることとなりました。退任が近いドラギ総裁が思い切った緩和発言で市場に口先介入したようにも見えた内容でしたが、これを良しとしなかったのが米国のトランプ大統領で、「ドラギ総裁は一段の刺激策が実施される可能性があると述べたが、これを受け直ちにユーロが対ドルで下落した。ユーロの下落で欧州は不当に容易に米国と競争できるようになり、欧州は中国などと同様、長年にわたりこうしたことをしてきた」と批判しこれまで直接的には行わなかったECBへの政策批判をあらわにすることとなりました。
もともとFRBとECBは金融緩和に関してはかなり連携した動きをとってきたわけですし、先般米国商務省が提案しとしてまとめてきた相殺関税の課税要件でも中央銀行の政策に伴う為替の変動は適用除外としてきただけに、今回のトランプ発言は他国の中央銀行も敵視する踏み込んだ言動ということになり大阪で開催されるG20 でもかなりもめそうな雰囲気になりつつあります。
スタンレーフィッシャーFRB在任時のMIT学派は消滅
FRBに副議長としてスタンレーフィッシャーが在任していた時期には主要国の中央銀行は日銀の黒田総裁とBOEのカーニー総裁を除けばMIT出身者で占められており、MIT学派などとも呼ばれた時期がありました。しかし今やパウエル議長は経済学派とはなんの関係もなくなり、次期ECB議長と目されるヴァイトマンも米系の大学の学位は持っていませんから、新たな中央銀行のバランスが築かれようとしていることは間違いなく、そこにトランプが為替の視点で切り込んできている点は非常に注目されるところです。
トランプはパウエル解任も検討
一方時を同じくして、トランプ大統領が今年の早い時点でFRBのパウエル議長を法的に解任できる選択肢を模索する様に法律顧問に指示していたことがメディアの報道で判明し、ちょうどFOMCの開催期間のリークであるだけに恫喝なのか本気なのかが市場で憶測される状況となってきています。
トランプはとにかく相場下落の予防線のためにFRBが利下げをしないから株が下落したとその原因をパウエルに押し付けようとしてきたようにも見えましたが、本当にFRB議長のクビを挿げ替えた場合、果たして相場はそれを好感するのかどうかが注目されるところです。
実際パウエル議長は今年の1月突然前月のFOMCまで語っていた内容を大きく宗旨替えする形で緩和的な発言をはじめており、直近でも緩和は非伝統的な手法ではもやはないとするなどかなり緩和に傾斜した発言をして明らかに株式相場をにらみながら政策を決定していることを市場の悟られる状況になってきており、利下げの催促相場が明確に顕在化しつつある状況です。トランプにより新任の議長が選出されればより利下げ、緩和に積極的な動きが期待できそうですが、FRBの独立性という点で議会が果たしてOKを出すのかどうかにも注目があつまります。
いずれにしてもトランプはいよいよ為替や株価上昇という視点から内外の中央銀行の政策に本格的にケチをつけはじめており、これがどこまでエスカレートするのかが非常に大きな問題になりそうです。