中国人民元レートが対ドルで意識的に7元を超え始めたことから、市場では中国が米国の対中関税攻撃の対抗策として米債を売り始めるのではないかという危機感が非常に高まりつつありますが、現実的な問題として中国の米債保有が徐々に減りつつあり、日本が主役の座を確保する状況になってきていることが最新のデータが明らかになりました。
足元では徐々に中国保有の米債が減り始めている程度で浴びせ売りが始まったとい騒ぐほどの問題ではありませんが、間違いなく中国は脱米ドルに動いており、この売りが継続すると、現状で驚くほど下がっている米債金利が反転上昇するリスクもでてきそうでかなり注意が必要です。
猛然と金を買い漁る中国政府
中国政府は今年の春先ごろから猛然と市場で金を購入しはじめています。5月が16トン、5月に11トン弱を購入したことから2019年上半期だけで合計74トンも買い増しをしている状況です。また中国は金の主要生産国でもあるわけですが、その精製された金を一切売却しておらずすべて自国保有に充てていることから、世界的に公表されている金の保有量よりもかなり多くの金を中国が確保していることはどうやら間違いのない状況となってきているようです。今後米中の対立が激化することになっても米ドルの影響を受けない外貨準備を確立させようとしているのは明白で、今後米債がさらに売却されることになるリスクはかなり高まりそうな状況です。
金利の上昇はFRBにとっても想定外の状況
足元の米債金利はすべからく低下傾向にあり瞬間的にではありますが10年債が1.5%を付けるといった低調ぶりで今後さらに9月のFOMCでの市場の利下げ確率は100%という状況ですから金利を下げている方向は間違いなく続くことが予想されます。しかし中国の債券売り浴びせから大きく金利が上昇した場合、FRBは緩和政策を進めることができなくなりますからかなり窮地にたされることが予想されます。逆に言えばそれだけ中国が米債を売るネガティブな効果があることがわかります。
とくに米債市場そのものよりも隣接する社債市場やCLO,ジャンク債市場などが非常に大きな影響を受けるリスクが高まり、一気に市場の信用収縮が進むことも視野に入れておく必要がでてきそうです。
米国金利の上昇は中国企業にとっても大変な足かせ
中国政府が米債を売却して価格が大幅に下落した場合、もちろん保有債券の価値を自ら低めるという非常にパラドキシカルな行為にでることになるわけですが、経済を媒介とした戦争である以上一定の犠牲を払って中国が米国に挑んでくることは覚悟しておかなくてはなりません。ただ、リーマンショック後の2009年から中国企業はかなり多額の借金をドル建てで行ってきており、ここへきて急激に金利が上昇した場合次の借り換えがうまく履行できなくなるという大変大きなリスクに直面するだけに身内の民間企業に想像以上のダメージを与えることも十分に勘案する必要がでてきている状況にあります。いずれにしてもこうしたネガティブな金融政策は多かれ少なかれ同士討ちになる危険性が高くなる点には相当注意が必要です。
中国政府は既に3000億ドルの追加関税に対して報復措置を示唆する発言をしており、なにが飛び出してくるのか市場は戦々恐々の状況ですが、明確に債券の売却を口にした場合には相当相場が荒れそうでここからの中国政府の対応にかなり注目が集まります。いずれにしても相場にとってはネガティブ以外のなにものでもない材料ですから、為替もリスクオフでドル円の一段安の危険性はまだまだ残っている状況です。