Photo 朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200121001324.html

日銀は1月21日定例の金融政策決定会合において、長短金利操作付き量的・質的緩和の枠組みによる政策運営方針の維持を賛成多数で決定しています。

それとともに新たな経済物価情勢の展望、いわゆる展望レポートでは政府が決定した財政支出13兆円規模の大型の経済対策を踏まえ、2019~21年度の実質経済成長率見通しを全て上方修正しています。

消費増税後も国内景気は緩やかに回復しているとしてきた日銀ですが、実態経済は消費増税後かなり厳しいところに陥っており、実は日銀の見方は間違っており、単に政権に忖度した見方をしているだけなのではないかという指摘も出始めています。

消費増税後の経済実態は日銀の認識よりはるかに悪い

しかしながら、昨年10月の消費増税後に発表されている景気実態を表す指標はみるみるうちに悪くなってきており、日銀の説明とは大きくかけ離れはじめています。

まず10月の国内の小売売上高は前年同月比7.1%の減少となっており、前回2014年4月の5%から8%へと3%消費増税した直後の4.3%の減少よりもはるかに悪くなっています。

増税直後は数字が悪化するものだと言えばそれまでですが、具体的な消費状況の落ち込みでいいますと、高額商品である自動車の駆け込み需要がなかったままに10月前年同月比で17%の落ち込みとなっており、完全に消費者は増税対策で買い控えに回っていることがわかります。

また10月の消費増税とともに開始されたポイント還元制度は順調に利用者を増やしていますが、経産省が実施した調査によればこれを導入したことで売り上げが増えていないところは全体の6割を超えており、さらに新規の顧客獲得にもつながっていない店舗がほとんどであることも分かってきています。

消費増税以降は小売売上高のみならず、景気全体の状況もかなり悪化していることが各指標からみられるようになってきています。

景気動向指数のCIは景気の変動を量的に把握する指数として注目される値ですが、平成22年の値を100として表わし、さらに現在の景気とほぼ一致して変動する一致指数は、5.1%下落しており、2014年4月の前回増税時期の4.8%を上回る状況となっています。

各指標を前年度との比較で、増加、横ばい、減少に分類し、その割合を%で算出する指標として有名のDIは景気が回復局面か後退局面かの判断に利用されていますが、昨年10月、11月と連続して既に0%を記録しており、97年の増税後に完全にバブルが崩壊しデフレに突入した時、また2008年のリーマンショック直後の状況以来のまったく成長していないという景気後退局面に突入してしまっていることは明白です。

こうした後退局面は国内の工作機械受注にも鮮明に表れており、11月の機械受注額は米中の対立の影響も伴って前年比37.9%まで落ち込みを記録しています。

一般的には月間で1000億が確保されていれば国内景気はそこそこの水準と言われるわけですが、2019年は既に月間で800億前後の状況で2020年に関しては年間合計で1兆円水準にまで落ち込むことも予想されています。

ここでご紹介した数字は景気判断のごく一部ですが、これでどこが景気は緩やかに回復しているのか日銀の見方に大きな疑問が生じる状況となっています。

実質経済成長率上振れ見込みは本当なのか

今回発表された日銀の展望レポートによると、実質国内総生産・GDPの対前年度比見通しを19年度0.8%増、20年度0.9%増、21年度1.1%増に上方修正に上方修正が加えられています。

その大きな理由としては、今年13兆円におよぶ政府の経済対策の効果を背景に、2020年度を中心に上振れが起きるからとしていますが、この13兆円のうち真水は4兆円足らずで、1997年に増税後景気が著しく悪化した際にはその後2年間で結果的に60兆円以上の真水の資金が投入されてやっと下落を食い止めているわけですから、今回の展望レポートの内容は甘いものであると言わざるを得ません。

景気実態を示す日経平均株価がここからどんどん上昇して年内に3万円、4万円をつけるとは到底思えない状況で、むしろ日銀がETF買いをして下駄を履かせている8000円以上の部分が暴落することを心配すべき状況といえます。

こうなると株との相関性の高いドル円も大きく上昇が見込まれるとは思えないものがあり、日銀の見方を一体どこまで信用するかが大きな問題になりそうです。

なぜ黒田総裁がここまで楽観的な見方を通そうとするのかの真意はよくわかりませんが、やはり政権がかなり絡んでいそうです。

ただここから闇雲な緩和措置に出ることもできないのが実情で、日銀も苦しい政策展開になりそうです。