サウジアラビアをはじめとする主要産油国は、4月12日に新型コロナウイルス危機とロシア・サウジ間の低価格競争により暴落した原油価格を引き上げるため、日量970万バレルという記録的な減産に合意しました。

トランプ大統領はさっそくこの合意を歓迎するツイートをしていますが、ダウの先物株価などは下落しWTI先物価格もさしたる上昇にはなっていません。

Data Tradingview

これには原油市場というよりも、世界の原油利用の先細りが想像以上に進んでいることが背景にあるようです。

世界景気は原油輸出国が考える以上に悪化傾向に

確かにOPECプラスにとっては、日産1000万バレル・レベルの減産というのは非常に大きな数字であることは確かですが、そもそも米国内のシェールガス企業はすべて民間ですから米国の大統領といえども、反トラスト法で何も言えない状況でこの減産合意の中に米国が入らないという問題があります。

さらに新型コロナの影響で外出が制限されていることから、主要国ではガソリンの消費が驚異的なレベルにまで落ち込んでおり、米国では既に通常の半分以下にまで減少するなど消費自体が劇的に減少してしまい、日産レベルでいえば3000万バレル程度まで減産しないことには需給のバランスが取れないところにまで陥っていると言われています。

すでにどこの国にも接岸しない形でタンカーに備蓄が進んでいて、妙な稼働率の高まりを見せているという話しもあり、需給バランスから言えば1000万バレル程度の減産では追い付かないという厳しい実態が浮き彫りになりはじめています。

3月以降の各国のハードデータはこれから順次開示されていくものと思われますが、今後小売売上高や雇用者数、自動車販売台数など実績を集計して発表されるコアなデータが続々詳らかになることで、我々の事前想定を超える経済の落込みが明確になる可能性はかなり注意が必要です。

3月から4月の頭までの相場は、新型ウイルスとこの原油価格の問題がパラレルに走っていたことから、意外に判りにくい相場展開となったことは確かですが、原油価格がここからさらには上昇しないことが明確になった場合には、為替を含めて再度相場が反転下落に追い込まれる可能性も高く、十分にその動向を見極める必要がありそうです。

いずれにしてもここからWTI原油先物が40ドル、50ドルといったようにその価格を戻していくことは短期的にはほとんど期待できないのが実情ですから、原油との相関性の高いドル円の動きがどうなるのかも非常に気になるところとなってきています。

気の早い向きはポスト新型コロナを口にするが楽観は禁物

FRBの過剰ともいえる緩和措置が次々と繰り出されることから、米株市場は一定の戻りを試す動きになっており、一部の市場参加者からは新型コロナの底値は既に脱しているといった楽観論も聞かれます。

しかし、上記のように実態経済へのネガティブな影響がどの位でていて深刻なのかはまだこれから詳らかになりますし、短期的に感染者数や死亡者数が減少するとすぐにピークアウトという見方をアルゴリズムなどは積極的に行っているように見えます。

こちらも過去のウイルスの感染では、何波かにわけて一旦収束してかのように見えてはまた感染が拡大するという周期を繰り返すことが既にわかっているので、単純に一回の周期でピークアウトしたからお仕舞いとは言えないところにも気をつけたいところです。

仮に新型コロナの感染が収束方向に向かったとしても、ここまで痛み切った経済が完全に元に戻るためには相当な時間がかかることでしょうし、企業業績に深刻な影響がでるのはここからの決算ということになりますから、中央銀行による緩和措置だけで戻している株式相場がそのまま維持できるのかどうかには相当な疑問が残るところでもあります。

多くのファンド勢はさらに厳しい相場になることを既に深刻にシュミレーションしており、決して楽観視はしていない点にも注目していきたいところです。

最悪の事態まで想定しておき、そこまで到達しなければ一安心といったようなかなり厳しい相場への対応力をもっておくことがこの時期のトレーダーには必要になりそうです。

当面難しい相場が続きそうですが、とにかくこのタイミングで楽観的な見方をすることだけは避けたい状況であることは確実に理解すべきでしょう。