新型コロナウイルスの感染はまだまだ収束したと呼ぶのは程遠い状況に陥っています。

株式市場だけは、主要国の中央銀行の史上空前の緩和措置を支えに前のめりで相場の上昇を果たしており、実態経済との乖離はますます激しいものになりつつあります。

そんな中でこの新型コロナ禍で経済はデフレに陥るのか、はたまたインフレが襲ってくるのかという見方がかなり分かれ始めています。

1929年から4年間の世界大恐慌では猛烈なデフレが進行

厳しい状況をコロナ大恐慌と呼ぶかどうかには様々な判断があります。

少なくとも米国の失業者数の爆発的増加を見る限り、1929年の大恐慌に近いかさらにそれを超える厳しい状況に陥っていることだけは間違いなさそうで、まずはこの90年ほど前の状況を確認してみますとここから起こることも見えてくる状況です。

1929年の大恐慌の場合にはGDPも失業率もデフレもかなり厳しい数字が表れることになり、それでも最悪の数字になるまでには最初の相場の暴落から時間が経過していることがわかります。

どうもこの部分は現在の経済の猛烈な悪化とは異なるものがあり、いずれにしてもまず多くの労働者が収入をなくしてしまいますと最低限のものしか消費しなくなり、当然厳しいデフレが到来してくることが予想されます。

実際1929年からの大恐慌では4年近く厳しいデフレが進行し、卸売り物価ベースでは米国でこの4年間にマイナス42%、英国がマイナス32%、ドイツがマイナス34%、フランスがマイナス38%、イタリアがマイナス37%と凄まじいデフレにさいなまれることになっていることが判ります。

比較的必需品だけで構成される消費者物価もこうした主要国は、軒並みマイナス20%からマイナス30%下落しており、とにかくものの価格が大きく下がったことは一目瞭然の状況です。

当時は各国ともに保護主義貿易を強く志向したことから輸出でものが売れることもなく、ますますデフレに拍車がかかったことがわかります。

今回のコロナ大恐慌でここまでのデフレが進むことになるのかどうかはまったくわかりませんが、コロナ感染が収束したとしても世界的に市場にはデフレが進行することは容易に予想できるところです。

現状では主要国のGDPはどこでも7割近くが個人消費に依存しているので、こうした厳しいデフレ状況で消費が伸び悩めばGDPが簡単に回復することなどありえず、実態経済が簡単にV字回復すると考えるのには相当な無理があることが見えてきます。

流通や配送といったライフラインが切断されればいきなりインフレ示現も

安倍政権はステイホームは声高に要請していますが、実はこうした状況を支える医療や介護、食品などを供給するための運輸、宅配ほかエッセンシャルワーカーがコロナに感染せずにしっかりライフラインを守れるような仕組とサポートを行うことがまったくできておらず、結局現場のあくなき努力に依存しきったものとなっています。

しかし、このあたりが崩れ始めれば実態経済は多大なダメージを受け供給されない商品が、デフレとは逆に高騰しはじめるスタグフレーションのような状況になることは間違いありません。

実際73年の石油ショック以降国内ではいきなり物不足から悪性インフレが進んだという実績があります。

何より第二次世界大戦に負けた日本では、何もかもが市場から姿を消したことで猛烈なハイパーインフレを経験しているので、インフレのリスクというものも実際にあることは想定しておく必要があります。

ここからはデフレ・インフレ双方への備えが必要

恐らく新型コロナ禍の経済は収束が実現しても最初に厳しいデフレが到来し、その後になんらかの事態がきっかけになって、今度はインフレのリスクが高まることになるのではないでしょうか。

1987年のブラックマンデーの時に、エリオット波動理論を利用して転換点売買で爆発的な利益を得ることに成功したポールチューダージョーンズは近頃、インフレヘッジのためにビットコインを買い持ちすることを推奨していますが、各国の中央銀行がここまで自国紙幣を刷りまくってばら撒けばどこかでインフレがやってくることは間違いなさそうです。

物不足がなくてもどこかでインフレシフトが明確に起こる可能性は考えておきたいところです。

全体として90年前の世界大恐慌の知見というものを市場参加者はほとんど認識できておらず、市場全体が経済の実情から大きくかけ離れた楽観相場に陥りがちですが、現実は相当厳しい状況が待ち構えていそうで、個人投資家としてはしっかり現実を見つめる力が必要な時間帯になってきています。