Photo Getty kyodo https://mainichi.jp/articles/20200508/k00/00m/030/020000c

トランプ大統領はFOXビジネスとのインタビューで、新型コロナウイルスの影響で打撃を受けている米国経済は第三四半期(7~9月)には過渡期に入り、来年には再び強くなるでろうという見通しを語りました。

しかしそれに続けて米国には強いドルがあり、ドル保有の絶好の時期であるとも語り、強いドルの支持を改めて表明しました。

これまで長くドル安を志向する発言を繰り返してきた同大統領ですから完全な転向なのか、単にドルが強いのは自分のおかげであるということだけを強調したかったのか、真意は今一つ良く判りません。

それにしてもここからの相場でドル高が継続するのはかなり難しい状況が続きそうで、具体的には3つの要因が疎外することになるものと思われます。

3月暴落後の史上空前の緩和とドル供給でドル安は必至の状況

まず、ドル安がここから簡単に示現しなくなっている大きな様相としては、FRBの市場への最大限のドル資金供給が挙げられます。

昨年9月に短期のレポ市場で金利が高騰したあたりから、NY連銀を通じて莫大な資金を短期市場に提供してきたFRBですが、3月の相場大暴落を受けてQEインフィニティ、つまり無制限緩和を早くも打ち出し即日実施、さらにドル資金が枯渇しないように猛烈な勢いで市場にドルを流入していますから、本来はドル安が大きく煤でもおかしくはない状況です。

しかし、市場では依然として金利が下がっても米債に対する需要が根強いうえに、リスクオフの時に債券よりもドルの現金に資金を逃がす投資家が多いのも事実で、これがドル安の進行を防いでいるという見方が強くなっています。

ここからドルがさらに強含むとは思えないものの、ドル安も安易には進まないという微妙な状況が続きそうです。

ゼロ金利実施で他通貨に対するドルの金利優位性は消滅

トランプ大統領は再度FRBに対しマイナス金利の実施を強く要請していますが、さすがにパウエル議長はその実施を否定しています。

ただ、パウエル議長はトランプ政権が組織しているPPT・プランジプロテクションチームの一員であり、これまでも結局トランプの意向をFRBの政策として取り入れてきていますし、何より市場がマイナス金利を織り込み始めている状況ですから、最低限政策金利をゼロ金利にすることは十分に考えられます。

こうなるとこれまで2%強の金利があったことから、他の主要通貨に比べて買われやすい存在だった一昨年から昨年初頭にかけてのドルの優位的存在は完全に消滅することとなり、ここでもドル高を維持する材料が亡くなることがわかります。

さらに、マイナス金利が本当に米国でも実施されるかどうかはパウエル判断次第のところもありそうですが、これが現実になった場合ドル高政策はさらに後退することになるのは必至の状況です。

なにより積み上がり過ぎた政権の債務から考えればドル安にせざるを得ない

トランプ政権としてはドル高を維持などしていられない深刻な事情を抱えています。

すでに政権のかかえる負債が昨年の段階で、日本円にして2200兆円と日本の国債発行による借金の軽く2倍を超えてしまった債務は、今年のコロナ対策の財政出動で軽く数百兆円の積み上げとなってしまい必ずどこかで返済を迫られることになり、これまで米国は真面目に緊縮財政を行って借金を返済するなどということはしたことがなく、常に自国通貨安をしかけることで借金を棒引きにする政策にでています。

1985年のプラザ合意もレーガン政権の双子の赤字対策でドル安を進めたのは明らかですが、当時のレーガン政権が抱えていた赤字は時代が違うとは言えたったの100兆円ですから、トランプ政権の状況は全く比較にならないほど厳しいことがわかります。

こうなるとトランプ大統領は本当に熟考して、今回のようなドル高支持発言をおこなったのかどうか今一つ真意が判らなくなり、新型コロナ禍でも支持率が上がらないため強いドルを自分の功績として口にしてみただけの可能性はかなり高そうです。

もとより対中国でも断交をちらつかせる位ですから、心底ドル高を願っているかはまったく不明であり、どこかで再度宗旨替えの修正をかけてきて、逆にドル安を猛烈にすすめる動きに転じることも考えておく必要がありそうです。

市場ではトランプ発言を受けてアルゴリズムが敏感に反応することでドル円は上昇しましたが、これが長く続くかどうかについてもここからの相場状況をよく見て判断していく必要がありそうです。