5月の半月を過ぎた為替相場はあらゆる通貨ペアでボラティリティが低下しはじめており、ドル円はこの半月で上下2円動くだけで、3月の10円という激しいレベルから急激に上下動がしぼみ始めています。
直近では1日に40銭動くか動かないことから、取引がしにくい状況になっています。
久々に前週の前半に108円台にのせたもののそれ以上上伸することはなく、107円台に押し戻されて小動きのまま週の取引を終えています。
ドル円については今年から内外の投資比率を大きく変更し、海外債券の比率を15%から25%にまで引き上げたGPIFがおよそ17兆円分をドル買いに動きはじめているのではないかといった見方も強まっており、確かに下値は想像以上に堅いものになっていることから、その可能性は高まりつつあります。
いつか買い切り玉は枯渇しますが、17兆円分の買いが本当にそのまま市場に出てくれば、ここからドル円をさらに押し上げかねないだけに注意が必要な時間帯になっています。
ユーロドルはドル円に比べればまだ少しは動く感じですが、それでも動きは細り始めており、動意は徐々に限られ始めています。
5月19日に、ドイツとフランスが新型コロナウイルス感染の流行から打撃を受けているEU域内の加盟国の景気対策として、日本円にして58.6兆円規模の基金を立ち上げる発表をしたことで、一時的にユーロは大きく買われる動きとなりました。
しかし、加盟国は非常に広範に及んでいることからこの程度の資金では不足するのではないかという見方も強まっており、ユーロドル相場も一旦の上昇を打ち消す動きになってしまっています。
北半球での新型コロナの一旦の収束感が影響か
ドル円の場合リスク回避になると、ドル高で円高になることから結果的に全く動かないといったことがこの動意不足の大きな要因になっているようです。
それとともに完全収束ではないものの気候が暖かくなってきているなかで、北半球では新型コロナの感染者が減り始めており、マクロ的には一旦の収束感が醸成されはじめていることもこうした相場の落ち着きに影響を与えているように思われます。
ただ、その一方で南半球やアフリカなどでは爆発的感染者もではじめていますから、世界的に簡単にここから収束すると考えるのはかなり拙速すぎで、一旦コロナを材料にして相場の動きが止まっただけで、二次感染などがでてくればまたそれを材料にして再度動意づくことを覚悟しておく必要がありそうです。
週明け大きなテーマとなるのはやはり米中の対立
本来パンデミックのような世界的な問題が発生すれば、主要国が協力して対応して世界に平和と安定を取り戻すというようなシナリオがハリウッドの映画には多いですが、リアルな世界は1930年代の大恐慌以降にもみられたように保護主義化が驚くほど進行し、グローバル化の猛烈な巻き戻しが進む結果となっています。
米国トランプ大統領は11月の大統領選に向けて、経済の回復よりも中国を敵視することで、国民からの求心力を高めようとしており、新型コロナウイルス感染が中国のせいであると猛烈な攻撃を始めています。
中国よりの姿勢が強まったWHOに対する資金提供を完全に止めようとする勢いであり、この間に台湾や香港で厳しい姿勢を強めようとする中国への批判も日に日に高まっている状況です。
とくに中国政府が香港について、扇動や破壊行為を禁止することを目的とした新しい国家安全法を導入する方針を示したことは、新型コロナでデモが鎮静化した香港の情勢を一気に悪化させることになっています。
ポンペオ米国務長官は5月22日、中国政府が香港版国家安全法の制定を全国人民代表大会に提案したことについて、香港の自治に死を告げる鐘になると非難しており、さらに週明け対中批判がエスカレートするリスクが高まります。
これまでのトランプの新型コロナ起因の厳しい非難発言は、正確な証拠も提示できないままにいささかやりすぎの感もありましたが、中国はこのコロナ禍にまぎれるように香港を完全に自国のものにしようとする動きもあまりにも唐突で、国家主義的な動きの強まりを感じさせられる状況になってきています。
一方カナダ、英国、オーストリアは共同声明を発表し、国家安全法提案について「深く懸念している」と表明し、香港市民の直接参加をまったく無視して一方的にこうした法律を導入しようとしていることに強い懸念を示しています。
こうなると西側諸国と中国の全面対立に発展する可能性も高く、ここからの動向に注視することが必要になりそうです。