6月5日米労働省が発表した5月の非農業部門雇用者数は、事前のエコノミスト予想の平均値750万人の減少から大きく外れ逆に前月比250万人増加となり、失業率も事前予想では20%超だったものが13.3%と低下することとなりました。

金融市場にとってはポジティブサプライズで、景気が急激に回復するといった期待から米株相場は一時NYダウがこれだけを材料にして1000ドルの上昇というとてつもない暴騰を示現することとなり、NASDAQは既に10000に到達しかねないという猛烈な上昇を果たしました。

しかし労働省はこの発表数字が間違っている可能性を示唆したことから、市場ではかなり物議を醸しだす状況となってきています。

この米国の雇用統計はどのようにして調査され、発表されているのかについて改めてまとめてみることにしました。

非農業部門雇用者数と失業率は別個に調査して発表されるのが特徴

米国統計発表は毎月第1週の金曜日、夏時間ならば日本時間の午後9時半、冬時間は1時間遅れて発表されるものでFX市場では昔からひとつのお祭り騒ぎ的に扱われる指標発表イベントとなっています。

非農業者部門雇用者数の調査は事前に選定された自営業、農業従事者を含まず対象事業所は約40万社・従業員数約4700万人で毎回調査では変化することとなりますが、全米のほぼ1/3を網羅しているとされています。

ネットが普及した今日でも旧態依然たる郵送によるやりとりをしているため、速報値は発表集計期日までに回収されたものだけをベースにして季節変動指数をかけあわせて算出されることから、とにかくぶれやすく平時でもエコノミストやアナリスト泣かせの指標となっています。

毎回発表後の翌月大幅に修正されることもあるため、直近の数字だけ見て泣き笑いしてもあまり意味がないものとなっています。

一方失業率の調査は、上述の非農業部門雇用者数・通称NFPの数値調査とは別個に毎月12日を含む週に全米の約6万世帯を調査対象として抽出して行われ、その結果から失業率を推定していることからNFPの数字との相関性は驚くほど低く、NFPで大きな数字がでても失業率には影響しないといった不思議な事態を過去にも何度も発生しています。

さらにこちらも速報値の発表後翌月以降に修正されることが多く、速報値の発表は正直あまり意味を持たないものになってきています。

今回誤差が発生した理由は誤集計か

米労働省は今回の5月分雇用統計の発表後失業率の数字が誤っている可能性について言及しています。

それによれば一時解雇とされた人たちの数を間違って失業率に組み込んでおらず、失業者総数の1,500万人を超える労働者の数を純然たる失業者としてカウントせずに、他の理由のために仕事を休んでいるに分類してしまったことが過少な数字になってしまっているようです。

そのため結果公表された数字よりも3%ポイント高くなる見込みが示唆されはじめており、実は4月の失業率についても同様の誤りがあることから、すでに4月時点で失業率は20%程度である可能性がではじめています。

ただNFPがプラスになったことについては特段コメントはなく、業界のアナリストが事前予想した数字でも最低でマイナス80万から最高ではマイナス2000万人となっていて外すにしてもほどがあるような状況で、プラス要因となったのが具体的に何なのかはさらに検証する必要が出てきているようです。

米国は1億6500万人ほどの労働者がいるので、月次でプラス100万人になろうがマイナス40万人になろうが誤差範囲のうちに過ぎなく、1929年以来とくに戦後としては最大の失業率を示現し始めていて、このあたりの減少や増加についてはより正確な数字の開示を求めたいところです。

Data CNBC

上のチャートはその大恐慌から今日に至るまでの失業率の推移を示しているものですが、10%を超えた段階でも相当な失業者数であり、しかも今後こうした失業者の増加は個人消費を通して経済に大きな影響を与えることになるだけに、非常に注目される指標であることは間違いない状況です。

株式市場では今回の5月の雇用統計結果から、経済がV字回復するといったかなり楽観的な見通しを口にする向きが俄然増えていますし、トランプ大統領も同様の話をして自画自賛する始末ですが、実態景気は我々が考える以上に厳しいところにあり、株価だけが上昇を果たしてもどこかで現実との乖離から厳しい経済状況のほうにサヤ寄せするタイミングがありそうで、ここからは相場が走っても注意が必要になりそうです。

そういう意味では市場に間違ったシグナルを発信してしまった雇用統計結果は罪の重い存在になってしまったようです。