Photo EPA時事 https://www.jiji.com/jc/article?k=2020053000327&g=int&p=20200530at69S&rel=pv

新型コロナの感染騒動以来、米国で黒人が警察により殺害された問題をきっかけにして猛烈な抗議行動が起きるようになっており、トランプ政権の支持率はここへ来てみるみるうちに低下をはじめています。

トランプ大統領としては内向きのもめ事に国民の関心が集まるのではなく、対外的に敵をつくることで支持率を上昇させたいと考えているのはある意味誰しもが想定できるところですが、ここへきて米国政府は議会に対して対中国政策の総括を改めて宣言する公文書を送ったことが話題になっています。

この文書では同盟国と連携することで対中の抑止を明確に示しており、ここからトランプの中国締め付けが一層厳しくなることを示唆する内容となっています。

そんな中で気になるのが米国株式市場における中国の上場企業の締め出し問題です。

物理的には米株市場から中国企業を締め出すのは可能な状況

米国市場における中国企業の上昇廃止の問題というのは、昨年米中が通商協議でもめたときにもトランプ政権で検討が取り沙汰された問題ですが、政治的な問題がいきなり経済・金融市場にも対立をもたらし、かなり大きな対立の火種になりかねないのが米国株式市場における中国企業の上場廃止の問題です。

しかし一旦この話しは収まっているようにみえますが、株価の高い状況下では実施しても相場に影響を与える可能性は軽微になることから、ここからトランプが無理やり実施することも十分に考えられる状況になってきていると言えます。

中国企業の強制上場廃止など簡単にできるのかと思うのは自然な疑問すが、現実には大きな問題は伴うもののどうやら実現は可能な状況になってきています。

NASDAQとNYSEおよびその傘下のアメリカン証券取引所にすでに上場している中国系企業は、大小含めればおよそ150社あまりでアリババや京東商城、百度などの大手も含まれています。

こうした中国上場企業大手の時価総額だけとってみても5000億ドルを超える規模となりますから、米国株式市場のなかでも馬鹿にならない存在であることは間違いありません。

米株市場では個別の銘柄に対する上場廃止というのはそれほど珍しいことではありませんが、地政学的理由から一斉に特定国出身の企業の銘柄が上場廃止になるというのは株式市場が始まって以来始めてのことになるだけに、資本主義の根幹を脅かしかねない問題で中国系企業にとっては少なからず痛手になることが予想されます。

株式の非公開化か別の市場に移転する方法が考えられる。

中国企業上場廃止で株が単純に非公開化となる場合、企業は株主から自社株を買いもどすということがもっとも単純な手法として考えられます。

ただ、価格が下落すれば保有株主にとってはなんらいい話ではなくなります。

もっとも可能性が高いのはそれこそ一国一制度が強まる香港の株式市場へ上場し、株主に米国での上場株と引換に新株を交付することが考えられます。

この場合、米株市場で保有されていた価値を維持できるかどうかも大きな問題になりそうです。

こうしたやり方は株主のみならず株式を発行する企業側にとってもそれなりのリスクが発生することになりますし、物理的な手続き面では相当な煩雑さを伴うもので決して簡単なものではないのが現実です。

しかしアリババはこうした事態をすでに想定しているのか香港市場にも上場を果たしていますから、米国での発行株式を香港に移動させるというのは全くできない話ではなくなりつつあります。

結果的には米国市場にも大きな痛手を負わせることに

この中国企業の米株市場からの強制上場廃止の動きは、一時的には中国企業にダメージを加える猛烈ないやがらせ策としてワークしそうですが、冷静に考えれば国際資本市場として機能しどれだけFRBが紙幣を刷りまくって配ってもドルの価値を維持することに役立ってきた米株市場に最終的には大きなダメージを与えることになるのは間違いなさそうで、米国の株式市場の価値を下落させる事になりかねない点は注意が必要です。

これまで一定の条件さえ満たせばかなり自由に上場することで株式市場から資金を調達することができてきたのは米株市場の大きな特徴でありメリットでしたから、特定国の企業だけ排除するような動きが顕在化した場合には株式市場としての自由な資金調達の場が崩されることになり、長期的には資金が集まらなくなる事態も十分に考えられるところです。

日本国内では中国がここから衰退してうまくいかなくなるといった見方をする専門家が多いようですが、米国をはじめとする海外ではポスト新型コロナの社会で一層中国が世界の覇権を握る存在になると警戒する向きも多くなってきているのが実情です。

米国政府による株式市場からの中国企業の締め出しが実施された場合には想定外のまずい状況を引き起こさないことを祈りたい状況です。