ここのところ、あらゆる通貨に対してドル安が進行していることが市場では大きな話題になっています。
これが季節性を伴った一時的なものなのか、あるいは国際的な通貨市場においてドルが基軸通貨の役割を終える可能性があるのかといった議論もではじめてきています。
議論のきっかけとなったのはCFR、米外交問題評議会が8月初旬に出した論文が切っ掛けとなっており、米国がドルの覇権をいよいよ放棄するタイミングが到来到来するのではないかとった内容であるため、ファンドを始めとして幅広く運用者の注目を集めている状況です。
CFRは老舗のシンクタンク
このCFRという組織は、大恐慌前の1921年にウォール街の財界人やNYの弁護士などが中止になって設立された非営利の外交シンクタンクであり、第二次世界大戦後の日独の復興計画、戦後の対ソ冷戦戦略の構築に大きな役割を果たした存在として有名です。
米国における戦後の歴代政権の閣僚や高官がカウンシルメンバーとなっていることから、現行政権に対する影響力もかなり強い存在となっています。
本邦の論文寄稿者としても野村吉三郎をはじめとして吉田茂、高木八尺、大来佐武郎、細川護煕、中曽根康弘、船橋洋一などが隔月発行の政治雑誌であるフォーリンアフェアーズに寄稿しており、実は日本の政界や財界でもそれなりの知名度を得ている存在です。
国内ではこのフォーリンアフェアーズの内容は1991年から1998年までは中央公論、1998年から2008年9月までは月刊論座で、一部論文の邦訳が紹介されてきていますので、目にされた経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この政治雑誌は最近では、2008年のアメリカ大統領選挙候補たちによる一連の論文を掲載したことも話題となっており、バラク・オバマ大統領やヒラリー・クリントン国務長官も大統領候補として外交論文を発表しています。
現在は同社が直接日本語版の雑誌を隔月販売している状況で、この内容はまだ残念ながら日本語化はされておらず、もう少し時間がかかりそうな状況です。
その雑誌に米国が基軸通貨の座をいよいよ自ら放棄する時期が到来したという論文が載り、話は穏やかではなく中国やロシアなど画策で徐々に基軸通貨としての地位が脅かされるというこれまでよくでてきた論文の流れではなく、自らそのドル覇権の地位から降りる可能性があるとしているのです。
75年の基軸基軸通貨の実績を棒に振ることが果たしてできるのか
すでに金融市場ではドルが基軸通貨として機能するのは至極当たり前のこととして認識されていますが、厳密にいいますとドルが基軸通貨としての座を確立したのは米ドルによる固定相場制を定めた1945年のブレトンウッズ協定以降ということになり、既に75年もの実績を誇るものとなっています。
ただ、それ以前は英国のポンドが基軸通貨だった時期も長くあり、決して特定の法定通貨が基軸通貨として未来永劫に機能するものではないことも理解しておく必要があります。
現状のドルは全体的な比重こそ下がってきたものの、依然として世界の金融市場におけるドル建て貿易のシェアは50%を維持しており、新興国の対外債務は依然として全体の6割以上がドル建て、各国の外貨準備も米国債を入れれば6割以上がドルということで、世界を見渡しても中国やロシアがドル離れを起こしたとは言え、まだまだ基軸通貨の仕組は崩壊していない状況にあることは間違いありません。
しかし、米国は以前から債務の累積に苦しんできており、そこにさらに新型コロナの流行という大きな経済危機と未曽有の財政出動を余儀なくされていることから国内貯蓄は枯渇、さらに経常収支は莫大な財政赤字に直面しており、もはや基軸通貨であろうとなかろうとドルがこのまま無傷でいられなくなっているという見方は市場全体で強くなっていることは間違いありません。
自国の債務の問題から米国はドル覇権を維持できなくなる、あるいは逆い基軸通貨の座を自ら降りる時代がやってくるというのも全く荒唐無稽な話ではなくなりつつあることを理解しておく必要がありそうです。
ドルが基軸通貨でなくなった場合金融市場は崩壊するといった悲観的な見方もありますが、金融の世界では想定外のまさかの事態は十分に起きる可能性があります。
ドル安傾向がこうした流れに繫がるものであるとした時には、相当なドル安と市場の劇的変化に備える必要がでてくることになりそうです。
さすがにこうした状況は今日の明日で起きるということではありませんが、そういう事態が起こりうる可能性はありそうです。