このコラムでは既に中国が米ドル離れをしているという話題をお送りしていますが、それと並行する形で米中対立の次なる火種としてクリアリング、つまり送金や決済のシステムでの米中の戦いが生じる可能性が高まりつつあります。

トランプ大統領は、中国ByteDanceにTikTokの米事業を90日以内に売却せよとの大統領令に署名したのに加え、さらにWeChatと米企業との取引を禁止する大統領令にも署名するといった展開になっており、まずはSNSの領域から中国企業を完全に締め出す動きに乗り出しています。

果たしてこうした制限の履行が健全な資本主義を維持できるのかというかなり大きな問題を感じさせられますが、さらに米国の中国叩きのテーマとして浮上しているのがクリアリングの問題です。

ドル建てのクリアリングから米国が中国を排除する動き

米中対立の次なる領域はクリアリング(決済)の戦いとなる可能性

米国は中国封じ込めの方法として、ドル建てのクリアリングシステムから中国の利用を排除することを真剣に模索しているようです。

クリアリグとは金融商品取引所における株式や債券の清算業務を専門のクリアリング機構に依存することで、米国はThe Clearing House Payments Company L.L.C.が運営するCHIPSと呼ばれる決済システムを利用することになっています。

米中対立の次なる領域はクリアリング(決済)の戦いとなる可能性
このCHIPSでは、世界の主要な銀行がオーナーとなり貿易取引や外為取引、クロスボーダーの証券取引などを中心とした大口のドル決済が取り扱われており、現在国際的なドル決済のうち95%超がCHIPSを通じて決済されています。

一日の取扱い金額は 1兆ドルを上回り、一日当り約 250,000件の銀行間決済を扱っていますから、このシステムから中国の利用が除外されることになれば、中国自体が独自の決済システムを開発利用している状況でも相当な影響が出ることは間違いありません。

米国ではファーウェイの存在が大きな問題となりましたが、5Gに絡む米国からの情報の収集の問題以外にもファーウェイはこのCHIPSを利用して制裁措置が取られているイランとの取引をおこなったことが大きな問題になっており、CHIPSを利用するかぎりこうした状況を米国が正確に掌握することができるようになっているともいえるのです。

米国としては個別のIT企業の米国からの締め出しのみならず、CHIPSにおいて中国が利用することの制限を目論んでいるようでこれが現実のものになった場合には、たとえ独自システムであるCIPSを利用しても米国からとてつもない制限を受けることが予想されます。

米国からドル建て決済を制限されることで中国の資産凍結も起こりうる状況

中国は大量に米債を保有することでも知られる国ですが、最近はその保有を減らして金などの購入にシフトしているのが現状です。

ただ、保有量は多額で日本に次ぐものになっていて、他にも米国内を含めてドル建て資産を大量に保有していることには変わりはありません。

中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行といった4つの銀行の保有ドル資産は合計1.1兆ドルと言われており、これが米国が香港などの制裁措置として中国のドル決済を排除されるようなことが起きれば、完全な資産凍結や差し押さえといった状況に陥る可能性が十分に考えられます。

中国側のエコノミストはこの問題をすでに真剣に議論し始めている状況で、中国側はこうした事態が起きることを真剣に危惧しはじめているようです。

中国の米債売りの報復措置がでれば市場は大混乱に

米中のドル建て決済・クリアリングの利用制限を巡る応酬が激化した場合、必ず中国側から米国債の売り浴びせによる報復措置がでてくるはずで、市場は債券も株も為替も大混乱に陥るリスクが高まります。

これまで中国が大量保有している米債を、自ら価値がさがるような売りといった真似はしないはずであると考えられてきましたが、ドル建て決済からの中国の利用排除が現実になり、大量の資産凍結が実施された場合なりふり構わず米債を売ることは十分にありうる状況です。

中国による米債売りが加速すれば価格は大幅下落し金利は大きく上昇することになり、FRBが足元で行っている金利上昇をまったく想定しない無制限の緩和措置にも大きな影響を与えることは必至で、とりわけ新型コロナの財政支出の原資をすべて国債発行で補おうとしているトランプ政権にとっても尋常ならざる影響がでることが考えられます。

さすがにドル建て決済から中国を締め出すなどというドラスティックな案はこれまでの米国政権で考えられなかったものです。

バイデンとその息子が中国と非常に近い存在である以上、中国叩きこそが大統領選の突破口であると考えるトランプにとっては、強引に実施しかねない状況が差し迫っており、ここからは事の推移に十分注視することが求められそうです。