先週の為替相場はパウエルFRB議長の上下両院議会証言に加え、日銀の政策決定会合、黒田総裁の最後の会見、そして米国雇用統計と盛り沢山のイベントを通過することとなりました。
日銀会合に関しては本邦勢の大方の予想どおり無風で通過することとなりましたが、大きな影響がでることになったのはパウエル議長の議会証言で、楽観視を決め込んでいた市場はパウエルのタカ派発言に株式市場を中心にして大きく動揺する相場となりました。

これまでFRBに政策的支柱として機能してきたブレーナード副議長が転出したことも、全体としてパウエル議長がタカ派的イメージを強めることになったのは否めません。
ただ、バイデン政権からも今年中にインフレをなんとかするように強く指摘を受けているのも事実のようで、それが語気の強さに示現した可能性もあります。
FRB高官の誰かから指摘を受けたのか、ほとんど同じことをいうはずの翌日の下院公聴会では前日の証言からは若干タカ派トーンが下がったようでここからはデータ次第、まだ3月のFOMCに向けては何も決まっていないとディフェンシブな発言を繰り返したことが印象的でした。

10日の米国雇用統計では非農業部門雇用者数が31.1万人増と予想の20.5万人増を上回った一方、失業率が3.6%、平均時給が前月比0.2%/前年比4.6%と予想より弱い内容となったことから、市場はNFPの強さよりも誤差範囲程度で挙げた失業率、ならびに平均時給の状況から今月21−22日のFOMCでの0.50%の利上げ観測が一転して後退し、ドル売りを加速することとなりました。
米金融政策の影響を受けやすい米2年債の利回りは29bpを超す大幅な低下となり、逆イールドはさらに激しく示現することとなっていますが、いい所どりをしたい相場はこうした利上げ抑制の判断を下したものと思われます。
相場は一連のイベントを消化してまたしても月内後半に開催される米国のFOMCに注目することになるでしょう。

問題はいきなり顕在化したSVBの破綻問題

Photo Reuters

先週最大の問題となって示現したのが、銀行持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行が突然経営破たんしたことです。
この銀行は、全米では16位にあり知名度もそれほど高くはありませんが、シリコンバレーでのスタートアップベンチャーとの取引は非常に多く、経営リスクが囁かれはじめて予想以上のスピードで顧客が預金を引き揚げ始めることとなり、シルバーゲート銀行とは全く異なる要因ながらCEOが顧客に冷静な対応を呼びかけ、たった1日あとにあえなく破綻となってしまいました。

冷静にみればこうした銀行の破綻がシステミックリスクとして他の銀行に広範に波及するとは思えませんが、市場はさらに同様の破綻に追い込まれる銀行があるかどうかに疑心暗鬼になりはじめており、当面こうしたリスク回避の状況が続くことが窺われるところとなってきています。
雇用統計で下落となったドル円はこの問題が出たことによりさらに下落を余儀なくされることとなっており、テクニカル的にはまだ上を目指す状況にはあるものの、材料次第ではさらに134円を下まわるといったまさかの展開も想定する必要がある状況に突入しています。

ドル円一週間の動き Data Tradingview

ドル円のチャートを眺めてみると、先週一週間は上昇しそうな気運は高まったものの結果的には下落の動きとなり、とくに雇用統計以降の下げが厳しいものになってしまったことがわかります。
テクニカル的には長い時間足では上昇方向を描いているといえますが、現状で下押した部分が本当に底かどうかはまだわからず、明けの経済指標等をみながら慎重に取引することが求められる一週間になりそうです。

週明け最大のヤマ場は2月米国CPIとECB理事会

週明けの為替相場ですが、中心になるのは14日の米国月次CPIの発表と16日に開催されるECB理事会の結果発表ということになりそうです。
ECBは前回2月の理事会で0.5%の利上げを決定するとともに、3月も0.5%の利上げを実施するつもりとの「予告」を行っており、現状ではそれに大きな変化がないかぎり市場は織り込んでいるものと思われますが、米国の月次CPIのほうは数字が上がればインフレ継続で利上げ必至、下がればインフレ一旦終息で利上げ幅減少や終息の見通しがでることから、相場がどうなるのかは結果が出て見ないと判らない状況に陥りそうです。

2週間前にFOMCで投票権のないアトランタ連銀のボスティックが市場の喜ぶ利上げ停止論を口にした翌週、パウエルが全く逆さまの発言をしては相場が落胆し大きく下げるといった動きになるのは、ここ1年以上毎月繰り返されるある種の年中行事化となっていますが、アルゴリズム主体のせいか相場自体は毎回この繰り返しに専念しています。
先週の雇用統計でも利下げ要因だけ良いとこどりしてクローズアップされた感があり、もはやテクニカル的にこの相場を考えることは相当難しい時間帯に入ってしまった感もあります。

ことによると本当に利上げが止まるまでずっとこの繰り返しを続けることになってしまうのかもしれませんが、どうやら真剣にこの相場にどうやってモチベーションを切らさずについて行くかは個人投資家にとってかなり大きな課題になりそうな状況です。
この不安定でセンチメントがコロコロ変わる相場はまだ当分続きそうなので、うまく付き合う方法を考えることが重要になりそうな時間帯です。