国内ではトランプ訪日でゴルフだ相撲観戦だ炉端焼きだという、およそ外交途は程遠い感じの安倍首相の異常とも思える接待話がメディアのヘッドラインを踊ることとなりましたが、その離日と時を同じくするように5月28日、ほぼ一か月遅れの形で米国の為替報告書が開示されました。一応トランプ訪日を配慮して物議を醸しださないようにその後の発表とした米国財務省のそれなりの配慮は感じますが、その中身はかなり日本にとって厳しいものとなっており、過剰な接待をしただけではなんら解決がつかないかなり根深い米国の日本に対する為替不振が浮き彫りになりつつあります。

監視リストは9か国

今回も為替操作国に認定された国はありませんが、監視リストには中国を筆頭に日本、韓国、ドイツといったなじみの国々が掲載された一方で、インドやスイスは除外されることとなっています。その代わりに新たに加わったのがアイルランド、イタリア、ベトナム、シンガポール、マレーシアであり監視対象国は6カ国から9カ国に増加しています。

ただ、規模の大きな国という視点でみますと中国、日本、ドイツがダントツで韓国を含めてこの4か国は2016年4月以来ずっと監視対象となっていることがわかります。

監視リスト入りの条件はさらに厳しく変化

この報告書で指摘されている為替操作国とは、為替相場を不当に操作していると認定した国のことを指します。

この為替操作国として認定されるためには次の3つの条件をクリアしていることが必要と言われます。

  • 対米商品収支黒字200億ドル超過
  • 国内総生産(GDP)比3%を超える経常収支黒字
  • GDP比2%を超える外国為替市場でのドル買い越し

したがってよほどのことがない限りこの対象国として認定はされないのが現実で、そもそも操作国には認定されない条件が設定されてきたと言えます。

しかしながら今回この認定基準は今回かなり厳しくなっており、対米貿易黒字の200億ドル以上は据え置かれたものの経常収支の黒字額が対国内総生産(GDP)比で3%超から2%超へとダウンしています。

過去12カ月のネット外貨購入も対GDP比2%超で据え置かれていますが継続的な介入と判断する期間はこれまでの8-12カ月から6-12カ月に短縮となり、より中国が

引っかかりやすい内容に厳格化されていることがわかります。

この選定要件で監視対象国の状況を見たのが下の表になります。

このリストを見ますと、明らかに米国の貿易赤字に巨大なシェアを占めている区のが監視対象となっているわけで、とくに対米貿易黒字の大きい順に表が並んでいる点は見逃すことができません。

日本への指摘もかなり厳しい

為替報告書はとにかく中国を最大のターゲットとしていることは間違いありませんが、それとは別に日本に対する指摘もかなり厳しいものを感じます。

円相場は過去5年間、実質実行ベースで円安水準が続いてと指摘しており、日銀の金融緩和と円安誘導がほとんどすべての政策となっているアベノミクスの結果から暗に安倍政権のことを指摘していることは間違いなく、トランプ訪日の影で粛々と実施されたライトハイザー茂木大臣の閣僚級協議の席上すでに為替条項について強引に合意内容に入れ込むことを強要された可能性さえ高まっている状況です。

物価を織り込んだ実質実効レートは1980年代中盤の200円から250円レベルにあり、このまま米国に円安が放置されることは絶対にないと言いきってもいいほどの状況に直面していることがわかります。ドル円相場の歴史はとにかく政治的に圧力を受ける歴史であり、現状のドル安がこのまま認められる状況になないことだけは確かなようで、ひとたびトランプから円安を巡る発言がツイッターで飛び出せば簡単に円高が進みそうな嫌な雰囲気になりつつあり、8月の日米の通商協議内容の開示を待たずともドル円が円高にシフトするリスクはかなり高くなってきているようです。

日本政府は日米間の交渉をTAGであるなどと詭弁を使っていましたが、内容はもはや完全にFTAとなっているのが実情です。ただ為替条項が今回の日米のこのFTAに盛り込まれたとしても具体的な為替水準がでてくるわけではありませんが、米国としては自国の2400兆円規模にものぼる債務を減らしていくためにもドル安は急務の状況となっているはずで、暗に1ドル100円以下を志向してくることになるのではないでしょうか。これがどのタイミングで示現することになるのかは依然としてわかりませんが、2020年の大領領選挙を睨んだ場合、その前に一定の為替の成果が欲しいはずですからそれほどの猶予はないもの思われます。夏に向けてはドル円も円高を意識した展開にならざるをえない状況になってきているようです。