ECB欧州中央銀行は12日の理事会で利下げや量的緩和の再開を含めた包括的な追完金融緩和枠の導入を決定しました。この10月末で退任するドラギ総裁はとうとう自分の任期中に緩和から出口を模索したものの足抜けできないまま追加緩和という置き土産を市場に放って去っていくこととなりました。米国に比べればEUの屋台骨であるドイツ経済は失速しややもすればテクニカルリセッション入りに直面しているだけに中央銀行としてもなんとかしなくてはならない状況にあることはわかりますが、まさにイーグルスの大ヒット曲、ホテルカリフォルニアの歌詞のようなもので一度緩和にチェックインしてしまうともはやそこから抜け出して去っていくことができない地獄の針穴のような状態に入りつつあることが非常に危惧されるところです。
緩和の内容はかなり包括的
今回の政策発表では市中銀行が余剰資金をECBに預け入れる際の適用金利である預金金利を現行のマイナス0.4%からマイナス0.5%に引き下げるとしています。また利下げに伴い金利階層化を導入し、マイナス金利の深掘りが銀行に及ぼす影響を軽減することを織り込んでいますが、金融機関からは必ずしも効果的ではないと不満の声がさっそくではじめています。今回は利下げのみならずさらに11月から月額200億ユーロの債券買い入れを実施し、銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の条件も緩和するとしていますが、果たしてどこまで効果があるのかが今後の大きな問題になりそうです。
新ECB総裁に就任するラガルド女史はIMFからの移行ということで輪転機で思い切り紙幣を増刷するのがもっとも得意芸となっていますのがすでに中央銀行の非伝統的といわれてきた緩和には限界が現れ始めていますから、これでどれだけ景気が持ちこたえられるのかに注目が集まります。ECBがこの会議後に公表した最新のスタッフ予想によると、2019、20年の成長率見通しはともに下方修正されており、今年は1.1%、来年は1.2%と予想されたことがこの新たな量的緩和の必要性の根拠となっているようですが、この緩和措置でどれだけ持ち上げられるのかはかなり怪しくなってきているといえます。
ドラギ総裁の置き土産の形となった今回の包括的な緩和措置ですが、マイナス金利の深堀を考える日銀の今月の政策決定会合にも大きな影響を与えそうな状況で、効果の問題はさておき日銀が対抗上似たようなマイナス金利の深堀を持ち出してくるかどうかにも注目があつまりそうです。
為替相場は行ってこいの大混乱
通常為替市場は事前に織り込んで売られ、結果をみて買戻しが入るという動きになることが多いわけですが、今回のECBの政策発表では事前に売り込まれた状況からさらにユーロが売られる展開となり、ドラギ会見を経て大きく買い戻されて元に戻るというかなり激しい動きを示現することになりました。過去のドラギ会見でもこうしたことはよくあったものですが、政策発表を受けてこれだけ直後に動きもとに戻るというのは結構珍しい動きであったともいえます。
ユーロ円もこの動きに追随する形でほとんど同じ動きを見せることになりますが、
これに完全に引きずられる形となったのがドル円で一時106.500円一歩手前まで下落するというとんだとばっちりを受けることになりました。
どの通貨ペアもドラギ会見後に完全にもとに戻るというかなりトレーダーにとっては迷惑な動きとなったのは言うまでもありません。またこの日はおまけのような形でトランプの対中協議のアドバイザーが一旦中国との暫定合意の可能性を示唆するような発言をしているという報道が流れましたが、これをホワイトハウスの関係者が否定するといった場面が間に挟まったことから、さらに相場の行ってこい状態が加速する形となってしまいました。
この動きを見てかなり明確になってきたのは、ドル円の足元の上昇というのがユーロ円やポンド円の上昇の動きにかなり引きずられていることで、ここから再度ユーロやポンドが下落し始めた場合にはそれに引きずられる形でドル円も下落の可能性がかなり高いということです。ちなみにポンド円とドル円の相関係数は0.888とかなり高く相当な連動性をもった相場の推移が示現することをしっかり理解しておく必要があります。
9月に入ってから突然相場は楽観的なリスクオンの状況に変化しているように見えますが、結局のところは売り過ぎの巻き戻しが起きているだけで、実のところはあまり状況に変化がない可能性も高まりつつあります。週明けにはいよいよFOMCと日銀の政策決定会合が開催されますが、シーズナルサイクルでいえば米株は9月前半に上げて後半に下げるという動きが顕在化し、ドル円も一定方向には動かないことが非常に多くなりますので、ここからの相場の動きには十分な注意が必要になりそうです。