20日のNY市場では、WTI先物の限月が変わるということで驚くべき投げ売りが発生したことから、その価格がマイナスに転じるという前代未聞の状況が示現することとなりました。

一夜明けて6月限月の先物についても価格は案の定下がり始めており、来月も同様の動きがでる可能性が強まりつつあります。

市場ではこの原油の価格の話でもちきりですが、実はここで冷静に見なくてはならないのは原油先物価格が示唆しているここから先の資本市場の先行きの問題と考える必要がでてきています。

何故ここまで下がったのか

すでに多くの方は5月限月のWTI原油先物が、なぜマイナスにまで落ち込むほど投げ売りされることになったかの顛末はご存知かと思います。

最終取引日を4月21日に控えた段階で、もはや原油を貯蔵する場所がなくなるほど在庫が市中に出回っており、石油関連企業ですら現物の引き渡し後に保管先の当ても保管料の高騰にも耐えられないと見切ったことが起因して、こした投げ売りによる現物押し付け合いが起きたことがわかります。

これまで原油はどんなに安くなっても引き取り手がありましたが、とうとう過剰在庫の中で置き場すらなくなってしまったというのが実情のようで、WTI先物の受け渡しを行う米オクラホマ州のクラッシングで、貯蔵能力に近づき保管料が急騰しはじめたことがきっかけで、ここまでの大暴落が一時的に起こることになりました。

本来先物価格がマイナスのまま期日を迎えれば、原油現物の引き渡しで現金を受け取れることができますが、業界内ではひたすら引き取り権利の擦り合いが行われたことが窺われます。

原油に関しては週間在庫統計なども発表されていますから、需給のバランスというのはある程度把握できていたなずなのですが、実は様々な輸送プロセスの中で原油がかなり在庫としてダブついていたことがいまさらながらにわかりはじえめており、こうした状況はここ数日で解消する見込みがまったくないことも顕在化しつつあります。

6月限月もののWTI先物も案の定下落

Data Tradingview

一夜明けて6月限月になったWTI先物は、一旦20ドルを超えるレベルにまで回復しましたが、需給の改善が短期間に見られる可能性がないことから、NYタイムにまたしても下がりはじめ一時1バレル6ドルに接近するほどの下落を見せることとなりました。

6月限月の現物の受け渡しまではまだ1か月ありますので、様々な思惑から売り買いが交錯するものとは思いますが、OPECプラスがさらに減産するという話しもでてきません。

新型コロナ起因の需要激減は相変わらず継続中であり、収束時期が遅れれば遅れるほど原油需要に影響がでることは間違いないことから、当分この原油価格の下落騒動は継続しそうな状況です。

原油市場の下落は確実に株価の下落を示唆するもの

5月限月の先物の現物引き渡しを巡っては驚くべき状況が展開されましたが、確かに先物がマイナスになってという点には驚かされるものの、この状況が示唆している裏側にあるものは一体何なのかということを考えておく必要がありそうです。

IMFは先ごろ今年の世界の成長率がマイナス3%になるという予測を発表し、1929年の世界恐慌以来最悪の損失となる8兆ドルが失われるであろうと予想しています。

またILOは今年の世界の雇用リスクは12.5億人と見ており、労働人口の38%が解雇や労働時間の削減により所得の減少に直面するとの予測を発表しています。

こうなると想定している以上に世界の景気は個人消費だけとってみても猛烈に悪化することは間違いなく、金融市場の中では唯一原油の先物価格がそれを如実に示す状況となっていることが見えてきます。

米株も債券もFRBのいわゆるQEインフィニティ、上限なき緩和措置を好感して相場はすでに半値戻しとなっており、プロのファンドマネージャーでさえも全値戻しを期待するような状況になっていますが、原油価格こそがこの先の株価の行く末を明確に暗示するサインとみるべきものがあります。

ここから5月に入れば米株は季節的に下落しやすい時期に入り込みますが、実態経済の悪化を示すハードデータが次々示現することにより、株価が実態経済に相関するようにその価格乖離を埋め戻す可能性が高くなりそうです。

不景気の株高というのはここから景気がよくなる前に見える動きですが、先に相場が上がるだけ上がってしまった中ではここからさらに不景気の株高が示現するのを期待するのは無理がありそうです。

株高はもちろんさらに続く可能性も否定はできませんが、大恐慌以来の経済の壊滅的落込みに直面して株価だけがここから上昇することがあるとすれば、それはもう旧来の資本主義の終焉さえ示唆する状況なのではないでしょうか。

今回のWTIの原油先物の大幅下落は、ここからの株式市場の先行きを示唆するものとして注目されます。

一旦下げ止まり大きく値を戻した米株を中心とした相場は、改めてここから下落リスクに直面しているものと思われます。