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岸田首相は臨時国会閉幕を受けて10日に記者会見を行い防衛力強化の内容、予算とともに、増税を含む安定財源を年内に決定する方針を口にしたことから、この財源を巡って激しい議論が展開されはじめています。
自民党の税制調査会は様々な分野での増税や税収の転用で対応する方向を示していますが、まだ素案の状況なので来年の国会での議論次第では全く異なる財源を模索することもまだ残されており、急激な日本の財政悪化が強まることになると市場が嫌気して日本国債の格付け低下にまで影響しそうな状況になってきており、注目材料として顕在化しつつあります。

UKでは財源なき大幅減税をぶち上げたトラス首相が即座に退陣

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今年9月財源なき1050億ポンド規模の財政拡張策を掲げて保守党総裁選を勝ち抜き、見事にボリスジョンソンの公認首相となったはずのトラス氏はその後財源もないのに大減税を実際に口にしたことからポンドは突然急落、英国債も大暴落で英国銀行が必死に買い支えを余儀なくされる状況に追い込まれ、結局経済失政で市場を混乱させた責任をとってたった1か月半で辞任を余儀なくされています。

これまでは米国中心にMMT理論の実践とばかりに政策実行原資があろうがなかろうが市場はバラまき大歓迎でなんの問題もないという状況が続きましたが、英国トラス政権の件からかなり状況が急激に変化し、原資もないのに大幅財政出動することに酷く嫌気して相場も過剰に反応したのが印象的でした。
トラス前首相の財源なき政策実施は1ポンド170円で換算すれば日本円にして17.9兆円規模でしたが、今回岸田首相がぶち上げている財源なき防衛力強化は5年で43兆円の規模にもなっています。
とりあえず純然たる増税でまかなうのは1兆円ということになり、財源難は国の規模が違うとはいえトラス政権の比ではないのが現実で、1兆円の増税がたとえ実現したとしても残りの部分について市場が納得するような原資の手当ができるのかどうかは相当大きな問題になると思われます。

米国からの軍事費拡大要求は安倍政権時代からやんわり約束されていたものなので、軍産複合体のバイデン政権が正式に要求してくるのをもはや拒めないと十分に悟っていた財務省が今回動いて、財源の一部だけでもとにかく税収からあてるように見えるシナリオを描いて岸田首相に強力に進言したのはそのためで、軍備は増強しますが執行原資のあてはなにもありませんという状況だけは無理やり回避したように見えます。
ただ現実は岸田首相が財務官僚のいいなりになってそのまま試案を口にして自民党の税調も突破したように見え、かなり心もとないものが感じられます。

2014年安倍政権下では消費増税延期で財政悪化懸念からJGB格下げが起きている

防衛予算1.5倍の大幅増額をぶち上げただけで日本国債が格下げになるのかとあやしがる方も多いと思いますが、財政悪化の懸念で国債格下げはこの10年の中でも実際に起きているという現実があります。

2014年安倍政権が翌年の2015年10月に予定されていた消費増税を一旦先延ばしとしたことから、JGBの格付けはAA(ダブル・エー)から A(シングル・エー)へと格下げされています。
この格下げでは債務履行の確実性が非常に高いから確実性が高いへのレベルダウンなので劇的な影響は免れていますが、もし今回この政治案がろくな原資も確保できないままに強行され、国債格下げが起きることとなりさらにBBB(トリプル・ビー)へと下落すると日本国債は投資適格債の最低レベルとなり、相応の影響が市場に次々と現れることになってしまいます。
そうでなくても日本国債は日銀の無理な対応からかなりクリティカルな状況に陥り始めており、格下げということは現実的な問題であることを認識しておく必要がありそうです。

国債格下げが起きると実に不都合な問題が次々と起きることに

国債の格下げが起きた場合、まず足もとで散々日銀が苦労して金利を上げないように画策しているYCC(イールドカーブコントロール)に破綻に至るのは間違いなさそうで、JGBの長期金利は確実に上昇を余儀なくされることになります。
本邦のシンクタンクが予め分析している予想内容を参考にすると、JGBがBBBに格下げされた場合長期金利は3%近い上昇となるとされているので、とんでもない高金利時代がいきなり到来するリスクが高まります。

また本邦民間企業が発行する社債については、カントリーシーリングと呼ばれるようにJGBの格付けを上回ることは出来なくなるためBBB以下に格下げとなって足もとより断然資金調達コストが高まることになり、本邦企業の海外での資金調達コストも上昇を余儀なくされることとなります。
当然円債を保有する本邦の機関投資家の資産内容は悪化するため経営を圧迫する部分も大きくなるものと思われます。

この防衛予算1.5倍増問題は意外にも金融市場に大きな影響を与えることになりそうで、事態の成り行きを細かに見届ける必要がでてきています。