米国の金融機関の破綻に加え、クレディスイスの経営不安、その後のUBSの買収で揺れる金融市場にあってFRBが今回3月のFOMCで当初の予定通り利上げを行えるのかに注目が集まりましたが、結果的には予定通り25ベーシスポイントの利上げを実施し、QTも引き続き続けることが確認されました。
米国財務省を含めてここまで金融機関は安定しており破綻は起こらないとしているので、利上げだけ先送りにするのはあらぬ不安を市場にもたらしかねないと考えたのか、パウエル議長は利上げを断行することを決定しています。
市場はあらかじめここまでの利上げはすでに織り込み済みであったことから声明の発表で暴騰、暴落などの大きな動意はみられませんでしたが、声明発表当初はハト派的というイメージが伝わったことからドル円も売られました。
ただ年内利下げを行う可能性はないという強いパウエル発言で一旦は131.600円レベルまで押し返される場面も見られました。
ただ、イエレン財務長官が21日に、米国財務省はFDICの預金保護を一時的に預金全額に拡大する方法を検討すると議会で言い出したことが問題になったようで、その後FOMC終了後に個別事案ごとに判断すると前言撤回するような発言をしたことを嫌気して株式相場は大きく売られることとなり、ドル円も下落方向に沈んで東京タイムを推移しています。
全米の銀行の預金総額は18兆ドルで簡単には保護できるような金額ではない
いとも簡単に全米預金者全額保護などを口にする米国財務省ですが、実はこの預金総額は18兆ドル、日本円にすると2400兆円を超える多額な金額なので、1250億ドルしか基金をもたないFDICでは補えません。
SVB破綻での預金者全額保護ではFRBがこのFDICに1500憶ドル近い資金を貸し付けてなんとか事なきを得る形になっていますが、この先全米で多くの銀行が危機に陥り取り付け騒ぎが発生した場合現状の規模の資金でそれを賄うことはできず、預金者全額保護は相当高いハードルを乗り越えていかなくてはならないことが判ります。
またこの話は本来議会を通過させて承認を得てから決定すべきもののため、財務省だけが独断決定できるような代物ではなく、そこにも大きな批判が集まりそうなことはイエレン発言の当初から判っていたものでもありました。
案の定民主党左派議員からも相当な批難の声が出たようで、イエレン財務長官もあっさり発言訂正を余儀なくされることになりました。
FRBは本当に利上げを続けられるのかのついては依然疑心暗鬼が残る状況に
今回FRBが当初予定のとおりに利上げを行ったことで相場はもとの動きに戻ることが期待されるところですが、これで今回示現している金融不安が完全に解消されるのかというとまだ疑心暗鬼が残る状況が続きそうです。
米国の金融機関についてはここから地銀を中心に調査が進むことになるため今年5月初旬までには詳細な結果がでてくることになりそうですが、欧州系の金融機関などはそれとは全く別の存在で、今回のクレディスイスの経営不安問題も水面下では深く進行していたはずが表ざたになったのは本当に破綻する直前であったことを考えると、どの銀行が安全かという話は信用できないものがあり当面疑心暗鬼の状況は続きそうです。
FRBが利下げしはじめると相場暴落に相当注意が必要に
パウエル議長は年内の利下げはありえないと断言していますが、市場の状況次第で政策変更が突然示現することにも注意が必要になります。
過去のFRBの政策では景気の低迷が鮮明になって利下げを始めた途端に株式相場を中心に暴落に見舞われたケースは多く、この先FRBが利下げを決断した場合株価の再上昇よりも大きな下落が示現するほうに心配する必要がありそうです。
今回の米国金融機関の破たん問題で金融引き締めを行うはずのFRBは、日本円にして30兆円近い金を図らずもバラまくことになってしまい目に見えない緩和が逆に進むこととなりました。
これはインフレの加速にも影響しそうで簡単には利下げを実施することはできないはずですが、FRBの政策は想像以上に政治の影響を受けているだけに政権の意向で方向が変わることも考えられ、引きつづき政策の動向を見守る必要があるでしょう。