今年も感謝祭の前あたりから、金融市場でよく耳にする「アルゴリズム取引」ではないかと思われる動きが顕在化しています。
直近のWTI原油先物にも、アルゴリズム取引と思われる動きが頻繁に確認され、不自然な上下動が相場を脅かしているようです。
アルゴリズム取引は、10年以上前からすでに始まっているため目新しいものではありませんが、最近のものはAIを実装しているため、これまでの単純なプログラム売買をはるかに上回る複雑怪奇な動きを示すものが多くなっています。
その結果、裁量取引を行う市場参加者たちは、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析をもってしても理解できない動きに翻弄され、損失を被るケースが増えつつあります。
ここからクリスマス休暇までは一段と市場参加者が減少するため、アルゴリズムによる仕掛け売買に巻き込まれないように十分注意する必要がありそうです。
基本パターンは概ね4つ、日々進化するアルゴリズム取引
アルゴリズム取引は日々複雑化しており、簡単に説明することはできませんが主に4つのパターンが挙げられます。
アービトラージ系
アルゴリズム導入の初期頃から始まっているのが、このアービトラージ系と呼ばれるものです。
アービトラージは為替や仮想通貨などでよく耳にするワードですが、本来同等の商品に価格差が発生したときに、安い価格の商品を買い高い価格の賞品を売ることで、価格変動リスクをとることなく差益を獲得する取引です。
単価の取引利益は微小であり、取引数量を増やすことで利益を獲得するため、瞬間的な売買を得意とするアルゴリズムに適した取引形態となっています。
マーケットメーカー系
マーケットメーカー系は、市場にビット(買い)とオファー(売り)の両方の指値注文を行い、他の市場参加者の注文を受けることでスプレッド収益を得ることを目的としています。
これも同一商品の差益を獲得する取引であるため、アルゴリズム向きの取引と言うことができます。
執行系
執行系は、大量注文を行うことによりコストの最小化や約定価格の最適化をはかる取引です。
参加者が少ない状況下で大玉の注文が出されたことにより、一時的に需給バランスがくずれ相場が大きく上下することがありますが、これが執行系と呼ばれるアルゴリズムによるものです。
ディレクション系
直近の金融市場で頻繁に確認されているのが、このディレクション系と呼ばれるものです。
ディレクション系は、ファンダメンタルズ分析を最大限に活用することで利益を獲得する手法です。
市場で「アルゴリズム取引の影響が出た」と話題になるのはこれが影響しており、経済指標などをきっかけに下方向に進むようなプログラム売買を行ったり、突然全数を買い戻すことで相場を踏み上げたりするのが特徴です。
裁量取引をしている市場参加者のほとんどが、なぜこのような動きになるのか理解できないまま想定を上回る損失に見舞われることが多くなります。
ドル円は感謝祭前後からディレクション系アルゴリズムが大暴れ
今年は感謝祭前から手仕舞い売りが広がり、アルゴリズムは指標発表などをきっかけに動くよう設定されていたことから、11月中頃からドル円が売込まれ円安が解消する展開となりました。
また直近では植田総裁の発言がトリガーとなり、まるで為替介入が起こったかのようにドル円が短時間で5.5円以上下落するという状況が示現しました。
相場は一旦動きはじめると、オーバーシュート気味に展開しやすいものです。
そこに意図をもって一定方向に進むディレクション系のアルゴリズム取引が出ると、市場参加者はテクニカル的にも方向が変わったと判断し反対売買をしがちですが、結果的には全値戻しとなることもあります。
ここ1か月ほど、WTI原油先物にこのアルゴリズム取引と思われる動きが顕在化しており、一度は95ドルあたりまで上昇した相場が、直近では一転し70ドル台を推移しています。
一部の参加者は、このようなボラティリティの大きい状況を流動性があって好ましいと感じているようですが、多くの参加者が「買ってやられ売ってやられ」に疲弊している状況です。
ディレクション系アルゴリズムを稼働させている CTA系ファンドは、この手の相場でさぞや儲かっているはずだと思われますが、実のところ利益はほとんど出ていないと言います。
やはり相場が思い通りに動かないことも多く、特に実需がはっきりしている市場の場合は失敗することも少なくないようです。
アルゴリズム取引が疑われる相場では取引見合わせという選択肢も
一口に金融市場と言っても、アルゴリズム取引が占める割合は商品ごとに異なり、年末を前にした閑散相場における為替については、およそ7割がアルゴリズム取引と言われています。
そのため、アルゴリズムが強引に相場を動かしているように見えるときは、値ごろ感だけで迂闊に買ったり売ったりはせず、一旦立ち止まり用心深く状況を見極める必要があります。
特に投機筋のほとんどがポジションを保有しないであろう状況下で、妙に売り買いが交錯したり、仲値前やロンドンタイムが意味もなく売られるところからスタートする場合は、アルゴリズムによる取引を疑う必要があります。
年末に向け、閑散としつつある相場では、指標発表など明確な動きのある時間を選んでエントリーするという工夫も重要です。
原油取引でかなりの損失を抱えたトレーダーも多かったようですが、11月末から現在までのドル円も相当な荒れ具合となりました。
例年以上に薄商いの相場で予測が困難な時は、取引を見合わせることも選択肢のひとつとして考える必要があります。