古くから為替市場に精通したシニアな市場関係者は口をそろえて、日本の金融当局の為替介入は単独であってもありえないとしていましたが、多くの予想に反して財務省・日銀はあっさり単独介入に踏み切ることとなりました。

巷では日本の財務省が米国の財務省から許しを得るために、なにか特別な土産を差し出したのではないかという見方も強まっています。
例えば米債をこのタイミングで増額して買入れる、防衛費の増額を見越して戦闘機などを増額して発注する、などが該当するものですが、どんな理由で米国財務省が承認することになったのかはわかっていません。

ただ今回の承認はあくまでスムージングという名目で、これ以上相場が上昇しないようにするというのが基本的な認識なので、ここから下に向って猛烈に値を下げるような介入はできないことが見えてきます。


22日の介入ではなんとか140円台初頭まで価格水準を下げることができましたが、23日の介入はなく、相場は2日と持たずに143円台中盤まで戻すこととなりました。
恐らく今週も145円が近づくと口先介入が出て相場を抑制しようとすると思われ、実際にこの水準を超えるような動きがでれば再度介入を試みることになるだろうと考えられています。

テクニカル的にはまだまだ下値は考えられますが、どこまで押し戻せるかは介入資金次第ということになり、無理やり作り出した流れの変更なので介入でトレンドが変わることは全く考えにくい状況です。

過去の介入でもっとも参考になるのはやはり1997年と1998年

Data Tradingview

上の画像は1997年から1998年の大きく分けて3回におよぶ円買い介入の状況をチャート上に示したものです。

この時期はアジア通貨危機が起こりドルに資金が集中することとなったこともあって、円は自動的に上昇を続けることになりました。
97年末に近い12月17日から18日までは3日連続約1兆円をかけて介入を行いましたが、結局下落させられたのはわずかで、思ったほどの効果が出せずに新年を迎えることとなります。
その後1998年年始は介入レベルを超えて上昇したものの、3月年度末まで弱含んで推移したことから介入は一切なくなりました。

しかし4月に入って130円を超えたところで2回目の介入がはじまります。
この時は4月9日、10日の2日に渡り日米の協調介入となり、日本サイドは2.8兆円を投入し4.25円の水準引き下げに成功しました。
ただ下落が維持できたのはほんの1か月足らずで、6月にはまた高値を更新することになってしまいます。

そして6月ちょうど足もとのドル円の水準のように144.12円を超えたところで、3回目の日米協調介入が実施されます。
この時日本は2500億円ほどの介入を実施していますが、日米協調介入が効いたのか8.12円の下落を示現させることに成功します。
それでもすぐに半値程度は戻しますが、全値もどしからさらに高値をとるまでには2か月程度の時間がかかっています。

今回22日の介入ではどの位の資金が投入されたか不明となり9月30日には公表されますが、一回目の介入としては下落させられたことがわかります。
ただし、介入は複数回行っても結局元のレベルに戻りやすくなり効果も半減することになります。
流れを変えるところまではできないのが基本であることから、時間がどれだけかかるかはまだよくわかりませんが、早晩再度新高値を狙うような動きが示現することが予想されます。

今後複数回の介入で問題になるのはどれだけの資金を投入できるか

介入は実施しても結局戻ることになりそうなのはこの段階から見えていますが、それでも一回に投入する資金次第では相場を一気に10円近くまで押し戻す力は十分にあることだけは忘れてはいけません。

現状、日本政府は1.3兆ドル程度の外貨準備を持っているとされていますが、その8割は米国債での保有で、これを取り崩すとなるとまた米国の承認を得る必要があり、先方も簡単には承認しないと思われることから、当面介入原資として利用できるのは米ドルの現金資産日本円にして21兆円から30兆円程度と推測されます。
22日の介入が3兆円程度ならばここから最大9回分程度の原資が残されていることになりますが、これが1回5兆円も使っていて、しかも投入原資の上限が20兆円しかないとなった場合には、残り3回となってしまうため、まずは22日の投入資金を確認することが重要になりそうです。

1998年のドル円の上昇は外部要因に起因するところが大きかったですが、足もとのドルの上昇は明らかに日米の金融政策の違いから生じているもので、とくに年末に向けて米国のFF金利が4%を超えるところまで上昇しても、日本はマイナス金利のままを維持した場合ドル円でもドル買いを止められる材料は全く見当たらなくなるので、永久に上昇することはありえないものの150円に接近するところまでは結局止められずに上昇する可能性がかなり高まりそうです。
市場ではこうした状況の示現を本邦財務省・日銀の敗北と呼ぶことになるのかも知れませんが、これだけの金利差がついている中では、為替介入だけでそれを抑止することはできないところに来ている点はしっかり認識しておきたい状況です。

ここからは1か月以上上値の重い展開が続くことは覚悟すべきですが、為替介入だけで流れが変わり大きく下値を試す可能性は相当低いと考えるべきでしょう。
下げたところは延々と注意深く買い向かうことで年末を迎えるというのが最もありえそうなシナリオになります。
まだまだ騙しの口先介入も出てくることになりそうで、145円に接近したところでは早めにしっかりリカクして様子を見るという用心深さを発揮させていきたいところです。