今年10月中旬ブルームバーグが自社の予測モデルで分析したところ、米国が1年以内にリセッション、つまり景気後退に陥る確率がついに100%になったと報じてかなり話題になりました。
同社のエコノミストのアナ・ウォン、イライザ・ウィンガー両氏が最新の予測モデルでリセッション確率をはじき出したところ、2023年10月までですでに景気が落ち込む確率は100%で、前回調査の65%を大幅に上回る状況となっていることを明らかにしています。また11カ月以内の確率は73%と、前回分析の30%から上昇、10カ月以内の確率は前回ゼロだったのが25%に上昇しており、この分析が正しいなら来年9月ごろには本当にリセッションに突入する可能性がではじめています。

先週4日発表された米国の10月分雇用統計でも非農業部門雇用者数の伸びが予想を上回ったものの、失業率の上昇や賃金の前年比の伸び鈍化が景気減速の兆しと受け取られ、ここでもリセッションが近づきつつあることを市場が感じはじめています。

さらに気になるのが逆イールドの発生

もう一つ、市場で非常に気にされ始めているのが逆イールドの発生の問題です。
イールドとは利回りのことを示しますが、たとえば金利が2%から3%に上がると保有している利回り2%の債券の魅力が乏しくなるため、債券の価格は下落しその結果として利回りは上昇することになります。
この利回りを短期から長期まで縦軸に、残存期間を横軸に取った点同士を結んでグラフ化したイールドカーブは、好況時には右上がりの曲線になりやすく、好況と不況の間の移行期は並行に、不況時には右下がりの曲線となりやすいと言われています。
とくに金融機関にとっては短期金利だけ上昇して長期金利が上がらないというのは死活問題であり、1978年以降の米国では1980年1月から同年7月、1981年7月から1982年11月、1990年7月から1991年3月、2001年3月から同年11月、2007年12月から2009年6月、2020年2月から4月の計6度の景気後退局面ではこの逆イールドが示現するというかなり不気味なシグナルになっていることがわかります。

Data FT

直近の米国のイールドカーブは上のものとなりますが、全体的に金利が上昇しようとする局面の中で逆イールド状態はかなり鮮明になってきていることがわかります。

Data FT

ちなみに本邦の直近のイールドカーブと米国のを比較してみると、日銀のコントロールが効いている下のグラフと上のグラフとでは全く形状が異なることが一目瞭然です。

景気後退局面では金利が下がっても株価は上がらないという大きな問題も

足もとの金融相場ではFRBの利上げがどのようなレベルまで進むのか、逆にどこでピークを打って逆に下げに転じるのかに日々マイオピックに注目する状況が続いていますが、過去の逆イールドの状況になるとインフレでない限りは中央銀行はその対策として短期金利を下げてイールドカーブをステーブル化、つまり短期から長期に向けて上昇する形に修正をはかろうとします。
ただインフレ状態の場合はそうした判断をするのが難しく、簡単に利下げすることも難しくなるのが常です。

利下げに踏み切ったとしても残念ながら景気後退の状況は株式相場の暴落に繋がりやすく、2000年のITバブルでも2008年のリーマンショックでも金利が下げ始めて逆イールドが解消しようとした時に大暴落が訪れていることがわかります。
また景気後退入後に本格的な株価の下落局面が訪れた場合、逆イールドの示現から株価の底打ちまでは2年以上の時間がかかっており、景気が悪くて金利が下がった場合に押し目とばかりに株に飛びつくと、さらに相場は大きく下落して大損するリスクが伴うことを示唆しています。

残念ながら市場はこうしたリセッションを真摯に受け止めるような動きになっていないことが危惧されるところです。

中央銀行主導で14年も続けた人工値付け相場のつけは相当大きなものになる可能性

2008年のリーマンショック発生時から、FRBは必死に市場に資金を供給し過剰とも思える緩和政策を進めることでなんとか相場を暴落から救い、過剰な資金の流動性から本来上がらなくてもいいレベルまで株価を押し上げてしまったという大きな責任に直面しています。
今回これでリセッション入りして株価もそれなりの下落と低迷状態に陥った場合には回復させるのに相応の時間が必要になることはあらかじめ十分に認識しておく必要がありそうです。

またもう一つ厄介なのは、同時期に欧州圏も深刻なリセッションに突入してしまう可能性で、米国だけの問題ではなくなりつつあることが非常に危惧されるところです。
米国ウォール街で働くミレニアル世代はすでに40才でもリーマンショックを経験していないといいます。
もちろん暴落相場の経験があるから素晴らしいとは言えませんが、大きく下げる相場がどのような動きをするのかについて全く知見がないなかで、日々相場の上げ下げだけに注目してトレードすると言うのは相当なリスクを伴うものであることは我々も正確に理解しておかなくてはなりません。

今年もあと2か月ほどですが、どうやら相場は新しいステージにシフトしようとしているようで、しかもそのステージは決して輝かしいものではない事を今のうちに意識しておくことが重要です。