米国は昨年からはじまった急激な利上げにも関わらず、表面的な経済指標は予想外に強く利上げの影響はさほど強く出ていないように見えます。
しかし個別の企業経営の側面から見ると資金の調達コストはリーマンショック後ほぼゼロ金利で、タダ同然のコストで容易に集められた状況から大きく変化しているのが実情で、利上げの影響は確実に市場に出始めています。
それを顕著に表しているのが企業の倒産件数で、5月の米企業倒産は前年同月比31%増の2324件となりました。
2020年の新型コロナ蔓延で米国の倒産件数は2021年まで突出して増えたものの、その後一旦収まってきたにも関らず利上げが始まったのを受けて急激に増加し始めていることが鮮明になりつつあります。
5月は前月比でも27%と増加に転じており、このままでは2023年の米企業倒産件数は2008年のリーマンショック後最高の水準に達することが危惧され始めています。
米ウォール街は年後半の景気の状況にかなり楽観的な見方をしていますが、実際にはそれをはるかに下回る大きな問題で市場に飛び出してきそうな状況になりつつあります。
チャプターイレブンは激増で信用収縮が完全に始まった状況に
倒産というと小さな個人企業も数にカウントされるので非常に多くなりがちですが、注目したいのは日本の民事再生法に当たる米連邦破産法11条適用・いわゆるチャプターイレブンのケースが激増していることです。
5月の申請件数は、前年同月比で105%増、前月比では76%の急増となり、NASDAQ上場をしている家庭用品のベッド・バス・アンド・ビヨンドや、データセンター運営のサイクステラがこれを申請したことが注目されました。
米国の利上げというととにかく政策金利だけがクローズアップされがちですが、企業が資金調達する場合の金利はここへ来て2.3ポイントも上昇しているため、シンクタンクの計算では企業が負担する利払い費はコロナ前に比べると実に1.8倍も高くなっていることがわかります。
今年4月から5月にかけて米国の地銀が破綻に追いやられることになりましたが、これは手元資金の枯渇が原因であり現状で倒産を余儀なくされている米国の企業もほとんどこの手元資金の問題が理由となっているようです。
コロナ発生時政府がバラまいた資金のお陰もあってか多くの企業は預金額が大きく伸びましたが、足元ではそれがほとんど取り崩されている状況で、企業経営にともなう運転資金の問題は外から見ている以上に深刻なところに陥っていることが見えてきます。
金融市場は米国のインフレ指標が強まれば利上げ継続、弱まれば一旦利上げ停止、さらに利下げを期待していますが、その裏で企業は確実に信用収縮に苦しみ始めており、政策金利の上下動よりもすでに確実に利上げの影響を被っていることが見えてきます。
2018年のリーマンショック後もこの信用収縮は相当大きなリスクとなりましたが、企業が直面する金利水準ははるかに当時を超え始めており、過去14年も続いてきた中央銀行バブルによる低金利の巻き戻しが信用収縮の顕在化として市場に現れているのは鮮明です。
とくに超低金利時代に積み上げた負債の借り換えに苦しむケースは想像を絶しており、今年後半にかけて多少の政策金利の下げがはじまったとしてもこの問題は企業経営に大きな影響を継続して与えていくことになるでしょう。
金融市場は都合のいいところだけ見ているが実は企業収益も株価も前途は暗い
米国の金融市場は具合の悪い問題がでてくるとFRBが何とかしてくれるという異常な期待が高まり、それを受けて株価も債券金利も動く相場が延々と続くようになっていますが、経済成長が鈍化しつつあるときに企業収益だけがダントツに伸びる、さらに個別の企業株価が成長率を大きく超えて伸びるということはありえないのが実情で、ここで指摘した米国の信用収縮の問題はここからさらに市場に大きな影響を与える問題となりそうな気配です。
現状における相場の動きは都合のいいところだけを見ている状況が強く、市場の楽観論から大きく離れた相場状況が示現することも想定しておくべき時間が迫っているようです。
利上げを中心とした金融政策は当然のことながらインフレ対策が基本となるので、信用収縮による企業破綻に配慮するといってもこれまでのようにゼロ金利に戻すことはできません。
過去14年とりわけ新型コロナの問題発生以降驚くほど市中にバラかまれてしまった資金が突然回収局面に変化したことはここから相当大きな影響を企業経営に与えることになりそうで、景気の悪化はいよいよこれから明確になることが予想されます。