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バイデン政権の対ロシア制裁が必ずしもうまくいっていないのとは裏腹に、米国に一も二もなく加担したNATO加盟諸国が逆にロシアからエネルギー供給停止という強烈な報復措置により、経済の凄まじい冷え込み突入に直面しています。
ロシアのガス生産会社ガスプロムは、この7月10日より21日までの11日間定期メンテナンスを理由にロシアのガスパイプライン「ノルドストリーム1」を停止しており、市場ではこのまま再開されないのではないかといった憶測が飛び交いました。

幸い、今回は定期メンテナンス終了後の木曜日に予定通り再開される見通しであることが報道されていますが、日量約1億6000万立方メートルの容量を下回る予定とのことで、状況はかなり不安定なものとなっています。
これが対ロ制裁に対する報復措置に徹底利用された場合、もっとも大きな影響を受けるのは中欧諸国で、中でも長年EU圏をけん引してきたドイツが強烈な経済減速に陥る可能性が高いだけに、その危機感は高まりを見せています。

ドイツは国民生活から事業経営にまで幅広く天然ガス不足が影響

ドイツは今まさに夏ですがその期間は想像以上に短く、北海道と同様に9月になれば朝晩は冷え込み、暖房のためのガス需要はいきなり高まりを見せることになります。
事態が相当悪化するであろうことを察知した一部の国民はすでに足もとの段階から冬のために薪を調達して保管するという準備までしており、ロシア側がノルドストリームを対欧州制裁の武器に使うであろうことは広範に認識されているようです。

また、欧州に拠点を置く事業者は、その事業に必要なガスの欧州在庫が冬場に枯渇しかねない状況であることから産業用のガスの使用制限がかかることを恐れており、電力・ガス会社や化学メーカーは警戒感を強めています。
さらに、供給が途絶えなくても天然ガス価格は跳ね上っており、すでにドイツ国内では一般家庭の供給価格が史上最高にまで跳ね上がり、ガスを利用したら生活が成り立たないといった悲鳴も湧き上がっています。

ECBはロシアがガス供給を停止するならユーロ圏が景気後退に陥る恐れがあることを認めており、事態は想像以上に深刻なところに向かっているようです。

ECBは21日の理事会で利上げを予定しているがそんなことではエネルギーインフレは止まらない可能性大

ECBは21日の理事会で、0.25%ないしその倍の0.5%の利上げを行うという見方がでており、どちらになるかを巡ってユーロは乱高下を継続中ですが、ロシアが仕掛ける天然ガス価格の上昇はより作為的で、かつ高騰率が高いことからその程度の利上げではインフレ対策など全く効果がない可能性が高まります。
むしろ経済の低迷からリセッションが本格化した場合に、果たしてECBが的確に政策発動して対応できるのかも相当怪しくなりつつあります。

ロシアのウクライナ侵攻は確かに一方的にロシアに責任がありますが、戦争を止めることに全力を尽くさずに武器をウクライナに提供したり、ロシアに対してすさまじい経済制裁を行うことでむりやりデフォルトに持ち込もうとした西側諸国に対して、プーチンがこの冬に向けて想定をはるかに上回る報復攻撃をエネルギーという武器を利用して仕掛けてくることはどうやら回避できないところに来ており、対立を深めることよりももっと和平交渉に力を入れるべき時間が迫っていることを強く感じさせられます。
このままでは年末に向けてユーロは対ドルで間違いなくパリティ以下を探るような相場展開となるのは避けられず、為替相場も相当荒れた展開が予想されます。

本邦も同じリスクが到来する

ここまで書くとまるで欧州固有のロシア問題のように見えますが、実は状況は本邦も同様で、7月11日には経済産業省が液化天然ガスの調達難から都市ガスの消費を抑える節ガスの検討に入ったことも報道されています。
つまり、年末に向けて今度は節電のみならずガスの節約まで国民が強要される状況が示現することになります。

当然供給不足のみならず価格の上昇がついて回るため、CPIのさらなる上昇は間違いないものとなりそうで、日銀が平然と緩和を継続するという姿勢を維持できるのも果たしていつまでなのかという時間が迫りつつあります。
こうなると各国通貨との相対的な関係次第ですが、ドル円は一旦140円レベルで上昇が止まったとしても、先行きもっと円安が進むこともシナリオとして考えておかなくてはなりません。

バイデンは中間選挙に向けてインフレはすべてロシアのせいだと言い切って断罪してきましたが、本当にプーチンが仕掛けるエネルギーインフレはまさにこれからが本番です。
引き続き注視していく必要があります。