フィンランド政府とスウェーデン政府は、9月4日に電力会社などの資金繰りを支援するためという理由で政府保証と融資を合わせて約4.7兆円の供与を決めています。
一見するとなぜ電力会社はこんなに支援を受けないといけないのか分かりませんが、背景にはロシアからの天然ガスを始めとするエネルギーがノルドストリームなどのパイプラインを通じて供給されなくなっているためその価格が驚くほど跳ね上がっており、常態的にヘッジのために結構巨額の売りポジションをもってきた欧州系の電力会社が軒並み追証を求められるという非常事態に陥り始めていることが挙げられます。
電力会社の先物取引では猛烈な損失が生じ、担保として差し入れる資金負担が急増して、国がその追証資金を提供せざるを得ないところに陥っているというわけです。

表面上は電力会社救済ですが、裏を返せば電力会社を支えてきた金融機関が破綻しないように救済している部分も大きいようで、事態は我々が想像する以上に深刻です。
ドイツでは今年7月下旬エネルギー大手ユニバーの救済に踏み切っており、ドイツ政府はすでに日本円にして最大約2兆8600億円融資を実行していますが資金不足は続いていて、9月14日には経営安定化に向け国有化が検討されているという報道もではじめています。
欧州における電力事業は完全にロシアのプーチン大統領のエネルギー攻めにひっかかってしまっており、このままいくとさらに多くのEU圏の国々で同様の問題が顕在化することが危惧されはじめています。

Photo Embassy of Finland in Tokyo

実際、足もとの問題当事国であるフィンランドのリンテイラ経済相は、このままでは欧州発でエネルギー版リーマン・ショックが発生してしまうと発言して注目を一身に集めることとなりました。

エネルギーのデリバティブ市場で危惧される大規模なマージンコール

ECBも今年9月に入ってからエネルギー市場で急激な流動性の枯渇を危惧し調査を開始しているようですが、エネルギーのデリバティブ市場ではここからマージンコール、つまり追証が求められる局面が相当深刻化しそうで、このまま放置するとエネルギー系企業の破綻が続出しそうなところに陥っています。

2008年9月のリーマンショックからすでに14年が経過し、世界の金融市場でデリバテイブ取引に関する規制は相当強化されましたが、その中でもかなり小規模に展開していたエネルギーのデリバティブ市場は規制らしい規制もなかったことから、プーチンによるエネルギー攻めのショックが欧州発で新たな世界金融危機に発展する可能性も視野に入れなくてはならない状況のようです。
この手のマージンコールの発生は他の資本市場から資金を回収して穴埋めするようなことになるためすべての市場で全部売りとなりやすく、それが市場の大暴落の引き金を引くことになります。
広範な市場で猛烈なダメージを引き起こす危険性はかなり高まり、想定をはるかに超える相場状況を示現することが危惧されます。

すでに投機筋は欧州相場の推移を注視

金融市場全体としては依然としてその中心が米国にあることから米株、米債、ドルの推移といったことにフォーカスしていますが、一部の米系ファンドはすでにリスクの中心は欧州にあるとして欧州の金融市場と経済・景気の推移のほうに注目しはじめています。
米国はCPIも高止まりとはいえ一旦のピークはつけた形ですが、欧州圏はこれから二桁上昇に陥る可能性が極めて高く、インフレひとつとっても欧州圏に大きなリスクが潜んでいることが窺われます。

2008年のリーマンショックは米国の金融市場が起こした大問題でしたが、議会に登場したグリーンスパン元FRB議長が100年に一度の危機だと証言したことから各国の中欧銀行も乗り出して過剰とも言える緩和に踏み切ったことは記憶に新しいところにあります。
今回の欧州発のエネルギー市場起因の金融危機の場合その規模はリーマンショックよりもはるかに大きなものになるという指摘があり、特にマージンコールの発生は幅広い金融市場に波及する危険性が極めて高くなると見られています。

それだけにこの冬に向けてエネルギー枯渇がダイレクトに欧州圏の国民生活に及ぼすリスクとともに、金融市場にのしかかるリスクに対する備えも必要になりそうです。