月曜早朝から日銀新総裁人事の観測報道で大きく窓を開けてスタートした2月第二週の為替相場でしたが、雨宮氏の起用を否定するような発言が政権幹部から次々発せられ、国会への提示も2月13日の週移行になるという報道が出たことから週後半は完全なアイドルタイムになりました。
しかし10日の金曜日東京タイムの午後に、日経新聞が黒田東彦総裁の後任に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する方針を固めたとリーク記事を報じたことから状況は一転、相場は乱高下を繰り返すこととなりました。
ただ、NYタイムに入って米債金利が上昇しはじめたことから、結局ドル円は131円台中盤レベルで週の取引を終えています。
相場はこれで一件落着とはいかなさそうな状況で、週明けもさらなる動きがでることを想定しておく必要がありそうです。
日銀新総裁はとうとう学者から任命
共立女子大学教授を務める植田氏はマクロ経済や国際金融の専門家で一貫して学者の道を歩んできた存在です。
日銀の独立性と透明性を高めた新日銀法が施行された1998年4月に東京大学教授から審議委員に就任した経験を持ちます。
97年11月の山一証券や、北海道拓殖銀行などの破綻による金融システム不安などを背景に日本経済が不況に陥る中、速水優総裁の下で実施されたゼロ金利政策や量的緩和政策を理論面で支えていますが、その後は東大に戻り学者として長い時間を凄し現在に至っています。
ただその知名度は極めて低く、今回の新総裁人事の事前予想にも一切登場しなかった存在だったことから、リーク報道がでた瞬間雨宮副総裁ではないというアルゴリズムはドル円を売りに走ることとなり、上下動を伴いながら130円割れまで下落する場面も見られました。
植田氏はこの日の夜、都内で記者団に対し、「現時点では何も申し上げられません」と述べるに留めて就任受諾の発言を避けています。
政府・日銀の共同声明を踏襲するのかとの質問に対しては、「まだ決まったわけではない」とし、「来週以降、話す機会があればそこでと思います」と語っています。
ただ肝心の日銀の大規模な金融緩和については継続が必要との考えを示していることから、相場は一旦買戻しとなっています。
また、副総裁には内田真一理事、氷見野良三前金融庁長官を充てることも追加のリーク記事で明らかになっています。
これまで日銀の総裁は財務省と日銀のOBが交互に勤めてくるのが一応の慣例となっていましたが、今回学者からの起用は完全なサプライズ人事であり、岸田首相がアベノミクスの路線と将来的に決別するのかまだ延々と続けていくことになるのかを市場は見極める必要がありそうです。
この植田氏は80年代初頭MITに留学して博士号を取得した際にはノーベル経済学賞受賞で話題になっており、バーナンキ元FRB議長と大学院の同級生だったようなので、MIT学派の学者たちとはかなり近しい関係で世界の主要中銀の幹部とも遠慮のないコミュニケーションを展開できることが期待できそうです。
しかし黒田総裁時代に行き過ぎた緩和ですでに出口に戻ることさえできなくなりつつあるイールドカーブコントロールをどうしていくかはかなり大きな問題で、就任直後からこのこの問題にどう対応するのかに市場の注目が集まりつつあります。
今回の日銀人事報道を受けて国債市場はすでに10日の夜間取引から軟化をはじめており、新発10年国債利回り(長期金利)は同1.0bp上昇の0.500%と、1月18日以来となる日銀の変動許容幅の上限を付けています。
多くの海外ファンド勢はすでに日銀はYCCを維持できないと見ていることから、3月に向けて再度日本国債の売り浴びせが進む可能性がありそうで、ドル円は一転して円高方向に動き始めるリスクも高まります。
14日の1月米国CPIにも大きな注目が集まる
週明け相場でもう一つ大きなテーマとなるのが14日に発表される1月の米国CPIの数字です。
過去1年あまりの推移で見ると、昨年大きな伸びとなった7月あたりと比較すればかなり落ち着いた数字になってきていますが、2月3日に発表された雇用統計ではNFPの数字が爆発的に伸び、インフレの低下などを見込むのはまだ早くFRBも状況次第ではさらに利上げを継続するかもしれないといった悲観な観測も飛び出しており、それを肯定するのか否定するのかを見極めるうえで1月のCPIの結果に大きな注目が集まりつつあります。
数字が7%台へと再悪化するようであればドル円は大きく買われることになり、さらに低下する傾向がみられれば逆に大きく売られる展開になりそうで、14日の発表時間にむけては迂闊にポジションをつくらないといった準備が必要です。
米国市場は妙な楽観論が広がるたびにそれを否定するような経済指標の発表があり、そのたびに相場は一進一退を繰り返している状況で、ある意味相当難しい時間帯に入っていることがわかります。
為替相場はドル円を中心に完全に方向感を失っており、日々ボラティリティの高い状況が継続中です。
相場の先行きを断定しすぎてトレードすると買ってやられ売ってやられという投げと踏みの応酬相場に巻き込まれかねないので、十分に見極めてトレードしていく慎重さが求められる一週間になりそうです。