サウジアラビアは先週4月2日、5月から年末にかけて原油の生産量を自主的に日量50万バレル減らすと発表し、これに歩調を合わせるように石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど非加盟産油国でつくる「OPECプラス」諸国も自主削減し、全体では日量約116万バレルの追加減産を決めています。
これを受けて米債金利は上昇、ドル円も珍しく激しいギャップアップで上方向に窓開けして4月相場をスタートさせています。
サウジのエネルギー省は石油市場の安定を支えるための予防的措置と説明していますが、原油高はインフレを再加速させる可能性が非常に高く、米国の中東での影響力が一段と低下していることを示す結果となっています。
バイデン大統領がサウジを訪問した際も両国の関係は全く改善しておらず、とくに石油の生産に関しては米国はなんの要請も聞き入れられない状況に陥っていることがよくわかります。
OPECプラスの減産報道を受けて4月週初のドル円の大幅上昇ではじまったのは違和感のある動きでしたが、OPECプラスの減産報道はその位市場にインパクトのあるものであったことが今更ながらに理解できます。
中国との関係を強めるサウジアラビア
直近では、中国の仲介により中東のライバルとして常にもめごとを起こしてきたサウジアラビアとイランが国交を回復させるという驚くべき状況が示現しています。
両国は2016年に国交を断絶していましたが、今回北京で行われた代表者会合では2ヶ月以内にそれぞれの大使館を再開することが合意され、完全に中国が仲介する形で国交が回復することとなりました。
日本国内では詳細が報じられていませんが、アメリカにできなかったサウジとイランの国交回復を中国が実現させたことは相当大きな驚きをもって国際社会に報道されることとなったのは言うまでもありません。
中国は我々が考えている以上に外交手腕をもっている国に成長しており、日本の岸田外交とはレベルの違うものになっていることを感じさせられます。
サウジは既に中国と人民元による国際取引を開始
昨年12月中国とサウジアラビアが人民元によるクロスボーダー取引を行ったことが発表されました。
つまり米ドルを介すことなく人民元によるクロスボーダー取引石油の取引が行われ、こちらも石油市場では相当な驚きをもって迎えられることとなりました。
こうなるともはやペトロダラーという米ドルの地位は完全に崩壊する可能性が強く、ひいては主軸通貨の地位からも脱落する可能性が非常に高くなり、とくに石油と交換できるようになれば人民元の地位が高まるのは必至の状況となっています。
恐らくほかの産油国とも同様の取引を展開するようになるのは時間の問題で、中国とロシアに関してはドル決済を一切行わない状況がかなり早い段階にやってくることも想定しておく必要があります。
人民元取引圏を急激に拡大する中国
足元では中国は南米諸国との国交樹立に奔走しており、アジア圏でも多くの国と人民元での取引を拡大させようとしています。
実際の利用拡大にはまだまだ時間がかかりそうではありますが、中国政府は国際決済取引でのドル依存度の低下を進めると同時に人民元の国際化を強力に推進しているのは間違いない状況です。
国際決済銀行(BIS)が3年に1度発表する世界の為替取引に関する調査によると、人民元の銀行間取引の1営業日平均の取引額は22年に1750億ドルとなり、2010年の21.5倍に拡大しています。
いまのところ日本円やユーロの取引額は人民元を上回っていますが、この10年では日本円がたった0.9倍の成長、ユーロが1.5倍の成長なのでいかに人民元の取引が増えているかが窺われます。
いまのところすぐに人民元が基軸通貨になるとは考えられませんが、いまの中国の外交戦略をみると人民元が世界の主軸通貨になるのもそう遠い話ではなくなっていることが分かります。
為替相場の世界でも人民元の位置はかなり向上しそうで、10年後の為替市場の景色は大きく変わっている可能性もではじめています。
いずれにしてもOPECの動きは為替市場に相当大きな影響を与える材料のため、主要国の利上げの問題とは別のテーマとしてしっかり見極めていくことが必要な時間帯に入っていることを認識する必要がありそうです。