8月22日から南アフリカ・ヨハネスブルグで開幕したBRICS総会、別名BRICS首脳会合は、逮捕を恐れてプーチン大統領はビデオ演説、中国の習近平国家主席は同時期に南アを訪問し、22日にラマポーザ氏と会談していたもののビジネス会議の会場には姿を見せず、王文濤商務相が声明を代読する状況となりました。
それでもビジネス会合には南アのラマポーザ大統領、インドのモディ首相、ブラジルのルラ大統領が出席し、グローバルサウスの役割強調が目立つ内容となりました。

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注目されたBRICS共同通貨については発表にならず

このBRICS総会ではどのようなアジェンダが詳細議論されたのかは結局明らかにされず、市場で期待されたBRICS共同通貨の発表もありませんでしたが、組織自体は確実に拡大していることが明確に窺われる状況となっています。
まず今回の総会開催でアルゼンチン、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦がBRICSに加盟することが決定しました。
極東の日本にいて米国だけを見ていると分かりかねますが、実は加盟国を世界地図にプロットしてみると今回の新規6カ国加盟でBRICSの規模は単なる新興国からさらに新たなステージに進んでいることが見えてきます。


世界の主要生産国の8カ国のうち5カ国がBRICS入りを果たしたことで、原油生産の実に80%がBRICSのコントロール下に置かれることになったのは驚きで、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イランがすんなり加盟したことは確実に新たな時代の幕開けを示唆する状況となっています。
この勢力はすでに世界のGDPの30%、実に30兆ドル規模に膨れ上がっており、すでにG7が競争の対象ではなくなりつつあることを示しています。

ペトロダラーは完全終焉の状況に向っている

オンラインで参加するプーチン大統領

習近平ビジネス会議不参加の中で大きな主導権を握っているように見えたのがウクライナ戦争で劣勢に廻っているようにみえたロシアのプーチン大統領で、プーチン氏は国際決済における脱ドルは「後戻りすることのないプロセスだ」と主張しドルに依存しない新興国との貿易に意欲を見せています。
今回BRICS共同通貨のローンチについては残念ながら具体的な発表には至っていませんが、世界の原油生産の実に8割をBRICSが制御するとなればドル決済を徹底的に排除しロシアルーブルや人民元ベースでの取引を拡大することは容易で、さらにBRICS通貨が発行されえば非常に重要な役割を果たすことになるのは時間の問題となってきていることが窺われます。
BRICS通貨のローンチがいつになるかはさらに状況を注視する必要がありますが、それとは関係なくドル建ての原油決済は西側諸国以外では使われなくなるのは間違いなさそうで、ペトロダラーは完全にその役割を終えドルが世界の基軸通貨から転落する時期も相当早まったことを感じさせられます。

さらにBRICS通貨が市場で噂されるように金本位制になる可能性が高いことから金価格にも今後大きな影響を与えることは必至の状況で、これまで米国主体でとり回しが行われてきた金融市場にも大きな変化が起きそうです。

米ドル中心ではない為替相場が示現すれば取引も激変

今回のBRICS総会の状況について米国を始めとする西側メディアは必要最小限の報道にとどめていますが、実は世界はG7の意思だけで動かして行かれないところに差し掛かっており、さらに原油生産という非常に重要なファクターをOPECではなくBRICSが中心になってコントロールする新時代が到来したことは衝撃的な状況に直面したことを示しているといえます。
金融市場を見ると金も原油もビットコインさえもドルベースでの相場の上下が延々と語られていますが、そうではなく世界がやがて突然爆誕してしまうことは十分にありえるところで、為替取引だけをとっても大きなパラダイムシフトに直面していることを十分に理解しておく必要がありそうです。

今回のBRICS総会を受けてBRICS共同通貨発行の下ならし、お膳立ては完全に確立したように見え、後はそれがいつ実現するかが大きな注目点となってきています。
とくに気になるのは米ドルを中心に外貨準備をするという発想がBRICS加盟国や周辺のグローバルサウスの国々で完全に消滅することで、31兆ドルの連邦債務を抱えここからも国債発行でそれを借り換えていくしか方法のない米国の債券を今後一体だれが買い支えていくかについても大きな問題が起こりそうです。
この時期、市場は米国ジャクソンホールのFRB年次総会でパウエルやECBラガルドの発言に注目していますが、全く別の構造変化が驚くほど早いスピードで構築されていることだけはしっかり理解しておきたいところです。