米労働省が4日に発表した5月の雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比55万9000人増加と市場予測の平均値には達しなかったものの4月に比べるとかなり改善した状況となりました。

コロナ禍からの経済回復が著しい動きを見せるなかにあって米国の雇用はなかなか難しい状況を迎えているようです。

予想を下回る雇用の伸び、労働参加率の低迷、賃金の上昇という組み合わせはFRBの金融政策の矛先を鈍らせる難しい状況ですが、この背景にはトランプ政権からさらにバイデン政権になって過剰に供給される給付金の存在が大きく影響していることがわかります。

そもそもNFPは参考程度の数字に過ぎないがそれでも改善しない点が問題

雇用統計の非農業者部門雇用者数・通称NFPの調査はその名のとおり米国労働省統計局が事前に選定された自営業、かつ農業従事者を含まないところを対象とし、事業所は約40万社・従業員数約4700万人への無作為抽出調査で全米の約1/3を網羅しているとされています。

ただ調査書の送付と返答はすべて郵送で実施されいることから月によっては遅延が激しく、速報値と改定値には毎回結構な修正が入るのも悪い意味で大きな特徴となっています。

また1週間に1時間でも新規にアルバイトなりパートなりを雇用すれば1人とカウントされますから、こうした数字が本当に雇用者数に入るのかといった疑問も寄せられています。

さらに季節変動指数を掛け合わせますから生のデータよりも大きくなったり小さくなったりすることがあり、金融市場でアナリストが事前予測しても毎月殆ど当たらないという問題もあります。

毎回発表されるこの数字を巡っては市場予測者の平均値との比較になりますからこれが多少良くても悪くても1億6000万人以上いる米国の生産労働人口に本当に影響を与えるものなのかについてはかなりの疑問が残りますが、それでも雇用の数字がよくない、なかなか改善しないという点はあえて注目すべきポイントといえます。

実際に足もとの労働市場の現場で起きていることがそのまま数字に現れている可能性は否定できない状況です。

失業していたほうが収入が増えるという過剰給付金状態

以前にもこのコラムではご紹介していますが米国の労働局が調べたデータによりますと現状における失業給付金の一時的上乗せは皿洗いやホテルのクラーク、一部の学校の教員などでは働いているよりも失業しているほうが収入が多いといった状況を呈しており、ネットビジネスで配達が活況を呈しているいわゆる宅急便のデリバリーでも汗して働かなくてもほとんど失業給付金で同じレベルの収入を確保できるというのですから求人が増えてもちっとも雇用が埋まらないというのは頷ける状況となっています。

9月末で失業給付上乗せは切れるが本当に労働力が戻るかが注目点

上乗せの失業給付金の給付は9月末で切れることになりますから、10月から人々が労働に勤しむようになり雇用の需給が満たされることになるのかどうかに注目が集まります。

実際の労働現場では人手不足から相当な単純作業でも求人単価は上昇していると言われており、ある意味かつてないような売り手市場が展開しているのは事実のようで10月になっても改善しない可能性がありそうです。

また米国の経営者は労働者の単価の上昇にひどく敏感であまり時間賃金が上がるようであればロボットやIT、AIなどを積極的に利用するほうにシフトしかねない状況もあり失業者が解消しないという事態に陥ることも危惧されています。

いずれにしても米国における労働の需給状況は本邦の状況などとはまったく異なりまったく買い手市場ではなくなっている点に大きな注意が必要になりそうです。

そういう意味ではMMT的な直接現金の支給は確かに消費などにもプラスに働きますが、多くの人々の労働意欲を喪失させる装置にもなりかねず適度な利用の調整が難しいことを示現しています。

FRBは金融緩和収束のひとつの指標として雇用の安定的確保と失業率の低下をベンチマークにしていますが、ここからはかなり難しいかじ取りとなることも予想されるところとなってきていることを改めて感じさせられます。