トルコ中銀がエルドアン大統領の意向に忖度して一気に2%も利下げを行うという驚くべき事態が発生して市場を驚かせていますが、こうした中央銀行の政権忖度による政策実施というのは決してトルコ中銀に限ったことではなく、世界でもかなり政策レベルが高く独立性が高いとされてきたFRBでも政権よりの政策を行うことが見え始めてきました。

これまで中央銀行といえばどこの国でも独立した政策立案決定機関であり政権の政策には影響を受けないという認識がありましたが、現実はそれとは程遠く、とくにFRBに信認性の低下が顕在化しているところが気になります。

インサイダー取引がバレたパウエルは政権忖度一本やりの状況

Photo Reuters.

このコラムでもすでにご紹介していますが、合法的とはいえ明らかに職権を利用したインサイダー取引を行っていたことが露見したパウエル議長については米国のメディアも追及を行っておらず、民主党からも厳しい指摘はないままですが、すでに次期FRB議長人事では更迭が決まっているのか継続するのかは不明ながら政権よりのことを口にするようになっていることが気がかりです。

先週末講演会に登場したパウエルFRB議長は、高インフレは来年まで続く可能性が高いと発言し、持続的なインフレが見られる場合は手段を行使すると結構強気な発言をし、市場が期待するテーパリングについても12月には開始して2022年半ばまでに完了の見通しを示唆しました。

ただ相変わらずテーパリングと利上げは別問題という声が登場して利上げは時期尚早と言いつづけており、イエレン財務長官のインフレ一時的発言と完全にシンクロする発言に終始しています。

つまりそれ相応のインフレが進行してもFRBとしてはあくまで利上げは行わないことを鮮明に宣言していることになり、その中身は上述のトルコ中銀の忖度された利下げとあまり変わらない状況です。

どうしても利上げなどしたくないバイデン政権の複雑な事情

バイデン政権は足もとでは急激に支持率を下げています。

コロナを巡ってのワクチン接種に関して国民からかなりの総スカンを食らい、アフガニスタンからの撤退を巡っても相当な批判を浴びており、大統領選挙前に民主党総出で準備したプログラムのローンチは比較的うまくいったものの就任後から9か月以上を経過してその政策が国民からまったく評価されなくなってきたためです。

それだけにここから株価が闇雲に下落したり、金利が大幅上昇してすでに3000兆円を超える連邦債務の利息負担が大きなものになるのは避けたく、イエレン長官も事ある毎にインフレは一時的であって簡単に利上げをすべき状況ではないことを口にしています。

すでにクリントン政権の財務長官であったサマーズとイエレンはネット上でインフレ懸念に対する激しい議論を始めていますが、どう見てもリスクはインフレ、もしくはスタグフレーション示現の方向にあるのは間違いなく、FRBが中央銀行として最大の使命のはずのインフレファイターの役割を政権忖度のあまり放置した場合に、果たしてまともに機能し続けることができるのかは大きな問題になりそうです。

この秋、FRBでは個人として株式投資などを行い、激しい利益相反とインサイダー取引の疑いからカプラン、ローゼングレン、クラリダの3名が引退という名目でクビを切られています。

これだけでもFRBの信認性はかなり低下していますが、議長のパウエルも同様のことを行っていてこのまま何の責任も問われずに議長職を継続することは不能であると思われ、ブレーナードに交代するのはもはや確定事項なのかもしれません。

しかしブレーナード体制になればさらに政権との親和性の高い政策が打ち出されることは間違いなく、ここからはさらにFRBの中立的政策発動能力が問われることになりそうです。