この秋口のトルコ中銀政策決定会合で、エルドアン大統領の強烈な利下げ志向を完全に忖度する形で3回連続の利下げを行った結果、トルコリラは対ドルでも対円でも史上最悪の下落を余儀なくされてしまいましたが、12月の政策決定会合をもって利下げは一旦様子見となったあとさらにエルドアン大統領が動き出したことから、トルコリラ相場は一段と不安定な状況を示現するようになってきました。

過去50年あまりのドル円の推移を見ても為替というのは政治の影響をダイレクトに受けるものであることが理解できますが、直近のエルドアン主導によるトルコリラの推移はまさに政治そのものに突き動かされるようになっており、投資の対象としてはあまりにも厳しい状況に追い込まれていることがわかります。

トルコリラ円日足推移

外貨換算の価値で保証する新たな預金保護策実施の発表で市場はさらに混乱

Photo Reuters https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB225HT0S1A221C2000000/?unlock=1

一連のトルコ中銀の利下げが一段落して相場は少しは落ち着くかと思われましたが、エルドアン大統領は20日、通貨リラ建ての預金を外貨換算の価値で保証する新たな預金保護策の実施を表明したことから、薄商いで留守番をするアルゴリズムが瞬発的に買い戻す動きとなりリラは対ドルで一転急騰しました。

国民からの不評を買ったエルドアン大統領の苦し紛れの発表とも見えるこの内容ですが、財政的に緊迫した状態が続くトルコにあってこうした原資がどこから出てくるのかは極めて不透明であり、どういったインフラの仕組みで実施するのか、さらに補償した資金に対して税金がどうなるのかなど全く不明で実質的な利上げと同じではないかといった声も聞かれるうえに、中国人民元と同様にオンショアとオフショアの2つの価格、つまり一物二価を危惧する声も高まりつつあります。

中国の場合圧倒的な支配力をもって市場に接していますから一定のペッグ制は今も機能していますが、トルコが対ドルでペッグ制を高らかに宣言しても本当にそれがワークするのかはほとんどの市場参加者が信用しておらず、トルコリラは新しい不安局面に突入してしまったように感じられます。

結果的に外貨換算の価値で保証する新たな預金保護策が失敗に終わればさらにトルコリラが売られる展開となることも予想できます。

エルドアン大統領にはそれなりの考えがあるのかもしれませんが、インフレ時期にあえて政策金利を下げるという行為には市場の誰も賛同しておらず、FX取引においてもトルコリラを扱うのは買うのも売るのも控えるべき時間帯に突入してしまったようです。

エルドアン自身は22日新たに打ち出したリラ建て預金保護策について目的を達成したとの見方を示していますが、投機筋を含めてクリスマスシーズンで市場参加者が激減しているだけで、クリスマス明けからまた激しいせめぎあいが再開することが危惧されています。

すでに主要な金融機関はトルコ株やトルコリラへの投資を控える状況に

主要な金融機関やファンド勢はコンプライアンス上の制限から止める動きにでており、取引はここから細る一方です。

また国内の店頭FX業者は過去数年トルコリラ円のスワップ取引を強く利用者にプロモートしてきましたが、この乱高下の状況を受けて結局レバレッジを下げるなど追証を求めるような動きに出ていますし、そもそもスワップの確保自体が怪しくなりつつあります。

すっかり様相は大きく変化しましたが、海外業者はドルトルコリラの取引を停止しているところもあり、年末年始にむけて益々取引額が減ることが予想されています。

気をつけなくてはならないのは日本の市場が休場になる12月31日や年明け1月3日の相場でアジアタイムの相場のとくに薄い時間帯を狙って売りがかさむような事になれば、2019年正月以来のフラッシュクラッシュに直面するリスクも高まりそうです。

個人投資家の中にはこうした下落モードの中でベンチャーエントリーとして買い向かうという勇敢な向きもいるようですが、FXの相対取引ではどこの業者も驚くほどスプレッドを広げていてまともに取引ができる状態ではなく、トルコリラ円の取引についてもこれを機に一旦相場から離脱するのも一つの戦略かもしれません。

トルコリラに関わるトレーダーの方はとにかく十分な注意と戦略の早期変更が必要です。