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前ECB総裁の経験もあるマリオドラギ現イタリア首相は、今月ワシントンDCで行われたバイデン米大統領との会談後記者団を前にして、EU圏のロシアとのガス取引に実態を暴露する発言をして話題になっています。

記者団からの、イタリアがEUの制裁に違反することなくロシアにガス代を支払いガス供給に関して影響を受けることはないのかという質問に対しドラギは、実際のところEU圏のほとんどのガス輸入業者はガスブロムとルーブル建ての口座を開設して取引をしていると実情を暴露しています。

日本がゴールデンウイークに突入する直前の4月27日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は欧州域内の民間企業に対し、ロシアの要求どおりルーブルで輸入ガスの代金を支払わないようにというかなり厳しい通達を出しています。
これに背けば相当な違反の罰則が待ち構えていると暗に脅している内容でしたが、実際に欧州圏の事業者は誰も守っておらず、ドラギはこうした制裁措置に違反するとどうなるのかの公式宣言がないことがその一因であることを示しています。

EUはロシア制裁をやっている感は出していますが、現実の取引の現場はすでにルーブル建て決済が着々と進んでおり、全く止めることが出来ないようです。

どうりで大幅下落したはずのルーブルがするすると値を戻し、同時期日銀の政策で売込まれた円よりもはるかに早くその値を戻しているわけです。

欧州委員会などEU圏ではなんのガバナンスも働かせない不毛の存在か

G7は5月8日に開いたオンライン会議で、対ロシア追加制裁措置としてロシア産原油輸入を禁止する方針を表明し、これまで足並みの揃わなかったEUと日本もこれに従う話になりました。
米国、英国、カナダはこれまで通り輸入禁止を堅持すると思われますが、EUと日本に関しては本当にそうなるのかは分かりません。
岸田首相はG7の結束を重視して、日本もロシア産原油輸入の禁止を決めましたが実際の削減や停止時期は今後検討するとして説明を避けています。

ウクライナと陸続きでリスクに直面するEU圏ですが、エネルギーという視点で見るとロシアとバッサリ取引を切ることが出来ないのが現実のようで、世界が結束してロシアと対峙するというのも現実はかなりのジェスチャーが含まれていることを実感させられるところです。


欧州連合のシャルル・ミシェル欧州理事会常任議長、EU大統領と、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長はちょうど12日来日して、岸田首相と3年ぶりに体面で首脳会談を実施しました。
しかし欧州域内でなんのプレゼンスも発揮できない人物と話し合いを行っても、どういう成果があるのか、と、厳しく問われるところとなっているようです。

ドルの基軸通貨は今後益々危うい存在に

恐らく長い時間をかけなくてもロシア産の原油やガスは完全にルーブル建ての取引が定着するものと思われ、取引を制限することは結果的にできないのではないかといった見方が強まっています。
この時点で、商品取引決済には必須とされていたため基軸通貨の地位を長年維持してきたドルは現実的にその座を追われることになりそうで、とくに原油、ガスの取引からドル建て決済が激減することになれば今後為替市場にもかなり大きな影響が示現することが予想されます。

ウクライナ戦争はロシアの強硬的な戦闘行為が批判の的になっていますが、実はエネルギー供給の面でロシアを完全に排除することはできず、とくに欧州圏がロシアへの依存度を影にかくれて維持し続けていることが大きな問題になりつつあります。
おそらくドラギはそれを指摘するためにあえて米国滞在時にこうした暴露会見を行ったものだと思われますが、EUは本当にロシアと全面対峙する気があるのかがこうした綻びから露見しており、このままだとなし崩しでロシアとの取引が継続することも考えられます。