植田日銀総裁が就任以来、日銀政策決定会合が開催されるたびに政策変更期待の相場の動きが示現していますが、向こう1年程度変更は考えないとする植田総裁自らのコメントが出てからというもの、一旦そうした動きは終息したかのようにみえました。
しかしここへ来て7月末の日銀会合で政策変更があるという観測が急激に高まっており、日本国債の金利は超長期債を中心に上昇、ドル円もドル高から大きく巻き戻される状況になっています。
本邦勢の視点から見ると相当ズレがあるようにもみえるこの日銀政策変更観測は、なぜ今また顕在化しようとしているのでしょうか。

きっかけは内田日銀副総裁のインタビュー内容の市場の裏読みから

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今回いきなりまた日銀の政策変更期待が高まったのは7月7日に開示された内田副総裁によるインタビュー記事がきっかけとなっています。
本インタビューでは内田副総裁は当面YCCを続けていくと強調しており、表面上はYCCが解除される可能性がほとんどないことを示唆していますが、YCCの解除は行わないものの修正については言及していなかったということから市場は大きく裏読みをはじめ、内田発言は市場にサプライズを与えないためにあえて出されたものではないかと憶測するようになっているのが足元の相場の観測のもとになっています。

日銀支店長会議が開催される7月10日前にあえてこうした内容が発表されたのも何らかの意図があると勘ぐられたもので、2024年の大統領選挙終了まで金利をいじるのはご法度と厳しく米国財務省から命令に近い要望を受けている岸田政権と日銀ではあるものの、YCCの変動幅変更に手を付ける可能性が十分にありうるとみる向きが海外勢を中心に激増することに繋がっています。
足元では米国の月次CPIの結果のほうが日本のCPIより下回るという状況になっているので、まともな中央銀行なら緩和をただ続けるだけでは済まないはずと考える市場参加者が多いのも頷けますが、様々な事情からそれを続けざるを得ないというのも日本の厳しい実情で、今回の変更観測も完全に空振りに終わるリスクは依然として相当高いです。

YCCは10年債で変更かもしくは5年債に設定変更か

こうなると7月28日の日銀会合で登場することがあるとすればYCCの上限変更一択になりそうな状況となっています。
YCCの上限を0.75%にした途端に相場はオーバーシュートして1%まで跳ね上がるといったよからぬ予想もあるので、今回変動幅を変更するのであれば最初からプラスマイナス1%とする可能性は高くなりそうです。
10年債金利がいきなり1%になるとなればドル円も5円から7円程度の円高が示現しても全くおかしくはなく、現状の水準から言えばいきなり130円割れとなるリスクは相当高くなります。
為替については円高で決着を見ることになるのでしょうが、問題はJGBの債券価格で10年債が1%を超えるとなると価格は相当下落することになり日銀の保有する国債も応分の含み損が生じることになります。
もちろん満期保有原則を貫けば途上の含み損は特段バランスシート上にも現れず問題にならないともされていますが、日銀が事実上の債務超過に陥ることになればそれをどう評価するかは市場が決めることなので、YCCの上限設定を変えただけでも結構大きな問題が示現することが予想されます。

またかねてから話がでていたYCCのコントロールを10年債から5年債にシフトしなおすという話についても、それがそんなに重要な意味をもつことになるのかどうかは不明で、結局YCC撤廃の動きを加速させるだけの可能性もでてくることになります。
いずれにしてもYCCをさらにいじるということはその先制御できない状況に陥ることにも繋がりかねないだけに、市場が期待するような変更になるのかどうかはかなり怪しいです。

政策変更なしという結果も十分にありうる状況

植田総裁はECBフォーラムの出席時には政策変更を厳密に否定しており、岸田首相は支持率低迷を一気に回復させるべく8月のお盆明けに訪朝するといった極秘作戦を企てていると言われ、これが上手くいくなら解散総選挙といった話も飛び交いはじめています。
こうなると国内の政治的な問題が足かせとなって植田日銀総裁が自由に政策変更を出来る可能性は相当低くなるとみるのが間違いないもののようで、政策変更なしでドル円が買戻しになると1円や2円の戻りでは済まなくなることも意識しておきたいところです。

日銀の政策変更についてはかなり広範に本邦勢がありえないと見ているのに対し、海外勢はまだその希望を捨てずに月末に突き進もうとしています。
こうなるといずれにしてもどちらかが大きな傷を追うことだけは間違いなさそうで、個人投資家としてはそれに巻き込まれて大損を食らわないようにくれぐれも注意しなくてはならない時間帯に突入しています。