銀行持ち株会社であるニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)が1日、前年第4四半期(10月~12月)の最終損益を修正し、赤字額が今年1月末に公表した額の10倍以上に拡大したことを発表しました。
赤字額は27億ドル(日本円でおよそ4000億円)にも膨らんでおり、高経営責任者(CEO)の交替も発表されています。
商業用不動産融資の貸し倒れによる赤字額が、こんなにも短期間に膨れ上がったことは驚くべき事実であり、日本のバブル崩壊後に多くの都銀や地銀が莫大な不動産融資の損失を抱え消え去った過去が改めて思い出される状況となっています。
ニューヨークでは商業ビルを1ドルで売却したという報道もあるほど、米国における商業用不動産の価値が短期間で急速に低下し、事業主たちも返済の目途が立っていない状況であるため、その焦げ付きが地銀の赤字に直結していることが理解できます。
現時点では、貸し倒れ問題が明らかになっているのは、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)と日本のあおぞら銀行のみです。
しかし、横並びで同じスキームを繰り返すこの業界では、今後同様の問題が他銀行でも顕在化していく可能性が高いため、ドル円はリスクオフにより著しく円高が進行する可能性が高くなっています。
米国の地方銀行の問題は通常、週末の土日に何らかの解決策が模索され、月曜日に発表されるケースがよく見られます。
昨年のシリコンバレーバンク(SVB)の場合は、取り付け騒ぎにより資金が枯渇したことにより破綻しましたが、今回は融資の焦げ付きが主な原因であり、財務省による週明け以降の対応が注目されるところです。
米国の株式市場は、AI関連の企業によりけん引され史上最高値を更新していますが、米国の地方銀行に関する経営不安はこれに完全に水を差す材料であり、今後相場が転換するリスクも考えておく必要がありそうです。
原因は融資審査の脆弱性と商業用不動産価格の暴落
こうした商業用不動産融資の焦げ付きは、そのほとんどが金融機関による融資条件の甘さに起因しており、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)も、ローン審査に関する内部統制の脆弱性を認め、CEOはすでにこの責任を取る形で交代しています。
米国商業用不動産の価格下落は、東海岸のみならず西海岸にも広がっており、まともな価格での流通が困難になるという状況にまで達しています。
不動産価格の急激な下落は、日本のバブル崩壊時にも顕著に現れたように、不動産は相対取引であるため、市場がどれだけ資産価値があると判断しても、経営難からタダ同然の価格で売り出される案件が増えれば、価格は大幅に下落し手が付けられない状況に陥ってしまいます。
この先、他の地銀でも同様の問題が発生する可能性は極めて高いため、赤字転落する地銀の増加が懸念されています。
昨年の米地銀危機の際は、ドル円はいとも簡単に3円程度円高へシフトする動きが見られましたが、その流れから行くと、今回もリスクオフにより突然円高となる可能性は十分考えられるため、ドル円をロングで取引するトレーダーは損切りをしっかりと設定しておく必要がありそうです。
懸念されるダメージの深刻化、試される米財務省の救済措置
米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)の大幅な赤字が明らかになった3月1日、同社の長期発行体格付けを「Ba2」から「3」へと4段階引き下げたことを発表しました。
これは、投機的要素の強いジャンク級の扱いとなり、経営が立ち行かない状況にあることが示されたため、資本の増強や経営統合を含む早急な救済策の実施が望まれています。
市場にとっては実に余分な材料であり、米国財務省の対応次第では今後さらに相場が荒れる可能性もあります。
また、現時点では商業用不動産の暴落が中心となっていますが、個人が保有する不動産にも同様の問題が連鎖すれば、ダメージはさらに大きくなる可能性もあります。
ここ数年、米国の主要都市における不動産価格の異常とも言える高騰に便乗し、賃貸価格も上昇した結果、中低所得者層は住居を見つけることが難しくなり、日本では親元で生活する若者も増加傾向にあります。
不動産価格が下落すれば、ある意味で生活は楽になるかもしれませんが、不動産業界全体が大きな損失に見舞われれば、経済は急速に悪化し、リセッションの引き金となる可能性もあるため、十分な警戒が必要です。
米国経済は一見すると絶好調に見えますが、すでに随所で綻びが見え始めているため、今後は金融市場にも大きな影響がおよぶことが懸念されています。