大規模な為替介入が行われた29日の翌日、日銀は国債の買い入れを実施しています。
財務省が多額の資金を投入しドル円の引き下げに注力する現状において、通常であれば日銀は国債買い入れを延期ないし見送ることでそれを支援するはずであるため、日銀は金利の上昇を抑える国債買い入れを実施する背景には、どうやら国際社会では理解されない闇の部分がありそうです。
確かに為替は日銀の管掌領域ではありませんが、政策に相反し行われるオペレーションについては、海外投機筋からも疑問の声が上がっています。
岸田政権は、日銀の体制が変わっても国債の買い入れを中止すべきとは発言していないため、相変わらず財政ファイナンスの重要なツールとして利用しようとする姿勢が垣間見える状況です。
マイナス金利とYCCの撤廃後も続く国債の買い入れ
日銀は3月の政策決定会合で、マイナス金利の廃止とともに、イールドカーブコントロール(YCC)の撤廃とETF買い入れの終了を決めています。
確かに黒田前総裁時代からの大規模緩和は終了したものの、日銀の都合により国債購入は相変わらず続いている状況です。
日銀の国債買い入れは、国に対する間接的な財政ファイナンスの実施でもあるため、本来ならば新総裁が決定した時点で、一旦打ち切るなり見直しをする必要がありました。
しかし、すべての政策をそのまま引き受けることを条件に後任者となった植田総裁は、それを拒否することができないまま現在に至っている状況です。
これを「植田大規模緩和の継続」と揶揄する業界関係者もいるようですが、あながち間違いとも言えない状況です。
植田総裁自身は、今後国債買い入れを徐々に減らしていく意向を示していますが、はたして現実のものとなるかどうかが注目されます。
「日銀文学」を地で行く植田総裁の会見
植田総裁が華々しい学歴と職歴をもって総裁に選出されたことは言うまでもありませんが、就任当初の評判はなかなかのものでした。
しかし時間の経過とともに、会見での的を得ない発言が海外メディアからたびたび批判を受けるようになり、国債の買い入れをやめないという事情も植田総裁を苦しい立場へと追い込みつつあります。
もともと国内には、抽象的でわかりにくい日銀の説明を皮肉った「日銀文学」という理解が進んでいますが、それが通用しない海外メディアやアナリストからの風当たりは一層強まっています。
日銀はこれを機に、市場とのコミュニケーションをより積極的に見直す必要がありそうです。
利上げの実施にはさまざまな課題が山積
インフレファイトが最大の仕事である中央銀行は、インフレが進めば利上げを実施するのは当たり前のことと言えます。
しかし日銀の場合、利上げに対しては多くの与件があり、総裁が変わったからといって簡単には政策を変更できないという特殊な事情があります。
まず、すでに発行している国債は1000兆円以上にも上るため、利上げを実施すれば途端に国債費が膨張することになります。
アベノミクスと称し大量に発行した国債の付けが、今ごろになって回ってきたことにより、財務省からは利上げの後ずれを要請される状況です。
また米国からも、世界に流動性を維持するため、出来る限り利上げを行わないよう圧力をかけられているとみられ、植田総裁は3月の会合でマイナス金利は解除したものの、ここからは緩和的にオペレーションを行っていく姿勢を示しています。
植田総裁も不本意ながら金融政策を行っているであろうことが窺えますが、それだけに説明のつかない部分も多く、主要中銀の中で日銀だけが特殊な立場に置かれていることが気になるところです。
為替介入と国債の買い入れという矛盾ともみられる政策を実施する背景には、さまざまな要因があることを改めて考えさせられる状況です。