ドル円の水準引き下げが目的とみられる円買い介入から数日が経過し、落ち着きを取り戻した市場は、ここからまた上昇トレンドに戻ることを期待する向きが増えつつあります。

しかし、ここに来てドル円の上昇に影響を与えるキャリートレード巻き戻しの問題が浮かび上がっています。

過去30年余りのドル円相場を振り返ってみると、下落の値幅は毎回想定を上回る大きなものになっているため、ここからのドル円相場の動向には十分に注意する必要がありそうです。

そもそもキャリートレードとは

キャリートレードとは、一般的に低金利の国の通貨で資金を調達し、それをより金利の高い国の通貨で運用することをいいます。

ドル円で言えば、低金利の円を借りて売り、より金利の高いドルを買うことで、両通貨における金利差を得ることができます。

この手法は、過去30年にわたる日本の低金利時代ですっかり定着しており、現在も市場で活発に行われていますが、その実態を正確に把握するのは極めて難しい状況となっています。

90年代後半に発生したLTCMの経営破綻

90年代、個人によるFX取引はまだ行われておらず、円キャリートレードはヘッジファンドなどを中心に行われていました。

当時、2人のノーベル経済学賞受賞者が参加していた事で知られるヘッジファンド、LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が突然破綻し、短期間で円キャリートレードの巻き戻しが加速しました。

これが明るみに出た98年の10月、ドル円は1日でいとも簡単に10円以上の下落を余儀なくされ、突然の出来事に市場は大混乱となり、売りがさらに売りを呼ぶというスパイラルに陥りました。

この時期はまだ、ユーロが地域通貨として機能していなかったため、個別通貨であるポンド円、フランスフラン円などの取引で大きな損失が出る事態となりました。

リーマンショック時にも発生した円キャリートレードの激しい巻き戻し

こうした円キャリートレードの巻き戻しは、その後しばらくは起こりませんでしたが、2008年に発生したリーマン・ブラザーズの経営破綻を機に再発することになります。

当時は主要国のほとんどが、軒並み2%以上の金利で運営していたため、多くのファンドで円キャリートレードが定番化されていました。

リーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに、為替相場は急激な下落に見舞われますが、事態はそれだけに収まらず、市場参加者が下げ止まりを確認したはずの相場で、円キャリートレードの巻き戻しによる下落はさらに加速していきました。

当時人気だった豪ドル円は、50%を割り込むところまで下落し、レバレッジをかけてロングポジションを保有していた向きは多額の損失を被る結果となりました。

為替レートが極端な乱高下を繰り返す状況下では、まともな価格設定もワークせず、多くの市場参加者に大混乱を招く事態となりました。

一度巻き戻しが起これば2、30円レベルの下落も

IMMの通貨先物ポジションは為替介入直前の時点で、売りが20万枚を超えるレベルに達しており、残ったポジションの巻き戻しが一気に進めば、リーマンショック以上の損失が出る可能性も指摘され始めています。

全世界ベースで見ると、円キャリートレードはすでに20兆ドルに達しているという見方もあるため、これが一斉に巻き戻しに転じるようなことがあれば、介入による押し下げどころではなく、ドル円は2、30円レベルの凄まじい下落を喫することになります。

すでに警鐘を鳴らしている市場関係者もいますが、いつ何時巻き戻しが発生するかを予測することは非常に困難な状況です。

 

昨年の11月にも、感謝祭を前に手仕舞いと巻き戻しにより、ドル円があっという間に10円以上も値を下げるという異常事態が発生しました。

相場は常に自律的に調整する機能を持っており、円キャリートレードの巻き戻しもそれに便乗することが予想されるため、ここからは大きな損失を被らないよう、常にリスクを意識したトレードを心がけたいところです。