日本時間の29日午前3時半から実施されたFOMCに関する質疑応答の場でパウエル議長は、米国債利回りが低下している理由がFRBにも良く判らないと発言し市場の注目を集めています。
米国のインフレ率は、新型コロナが流行ってからの需給バランスの変化や人件費などを含めて13年ぶりにコストプッシュインフレの傾向が表れており、FRBのテーパリング実施観測が強まって一時的に跳ね上がりましたが、足もとでは米債の利回りは大きく下落し米債価格が延々と上昇する状態が続いています。
多くの市場参加者が経済学の通説とは違ったこの状況に不安を抱いていますが、FRBにもその理由が判らないと発言したパウエル議長にも注目が集まっています。
パウエル議長は3つの可能性を指摘
パウエル議長は理由が判らないと発言しましたが、3つの可能性を指摘しています。
1つ目は新型コロナウイルスのデルタ変異株の流行により経済発展に対する懸念が広がって実質利回りが低下し、それに続いて債券利回りも低下したという見方です。
また市場参加者によるインフレ期待の低下を要因とする説も2つめの理由として挙げられています。
一時的にインフレ期待が高まっていることは事実ですが、反対にここからデフレに動く可能性もないとは言い切れないので、一方的にインフレ期待だけが高まるわけではないことを含んだ見方と言えるでしょう。
さらにパウエル議長が指摘したのがテクニカル要因によるもので、実は投機筋がインフレから金利上昇を見越して米債を空売りしたものがここへきて一気に買い戻され、債券利回りの低下に繋がったという見方です。
多くのファンド勢はこの見方をしていると思われます。
リアルな米債市場はFRBが最大の買い手
米国債と言えば多くの海外投資家が購入するというイメージがありますが、直近の市場だと今年1~3月は66%弱をFRBが買い上げており、海外投資家による買い上げは38%程度しかありません。
これは日銀がJGBの主要な買い手になっている日本国債市場と似ていて、極端に言ってしまうと自由な市場はすでに崩壊の過程にあると言った考え方もあり、FRBがマニピュレーションで債券金利を事実上コントロールし始めているのではないかという疑いも高まっています。
冷静に見てみるとFRBが裏でコントロールしているという説が最も正しいのではないか、と思われますが、パウエル議長は自分たちでコントロールをしているとは絶対に言わないでしょう。
いずれにしても米債相場には何か大きな変化が起きていて、ここからは為替、特にドルが米債金利との相関性を維持した動きになるのか、全く別の動きになっていくのかに大きな注目が集まります。
バイデン政権では今後も莫大なインフラ投資で資金を市場に投入すると言われており、早くも中間選挙を睨んでカネのバラまきを止めることはほぼ無いでしょう。
FRBがこの政権に加担するとすれば低金利は今後も継続することが考えられ、インフレとの連動感もこれまでにないほど薄れることもあるかもしれません。
カナダやニュージーランドの中央銀行はすでに伝統的な手法をもってインフレ的状況、特に住宅価格の異常な値上がりに対処する姿勢を見せていますが、FRBに関しては伝統的な政策手法を繰り出してくる可能性は低く、パウエル議長は現状の政策をできる限り引っ張るつもりなのではないかと考えられています。
8月後半にジャクソンホールでの会合を控えていますが、それでもFRBの政策が変化しない可能性は高く、パウエル議長のここからの発言がより一層注目されます。