市場が多くの期待をよせたジャクソンホールにおけるFRBパウエル議長の講演ですが、結果はかなりハト派的な内容に留まり基本は現状維持でここからの経済データを重視しながら早めの緩和縮小も考えるといった内容となりました。

今回ジャクソンホールのリアルイベントではなくデルタ株の感染拡大を危惧してオンラインで行った時点で、大きく踏み込む発言は出ないのではないかといった観測も高まり一方的なテーパリング開始発言期待はかなり外れた感じもありましたが、講演内容の開示を受けて110円台前半にあったドル円は109.800円レベルに下落したもののそれをさらに超えるような下げは現れず、比較的穏やかな下落となりました。

株式市場ではパウエル発言を好感し米国では3指数ともに上昇しています。

Photo Yahoo Finance動画より

パウエル議長は米国債を買い入れる量的緩和策の縮小時期について、経済が幅広い改善を続ける限り、今年資産購入の削減を始めるのが適切になるだろうと発言するとともに、量的緩和の縮小が利上げの時期を直接示唆するものではないとも説明しており、FRBが2020年春に導入した事実上のゼロ金利政策に関連し、利上げを急がない方針を強調してバイデン政権との親和性を強調する内容になっていることも確認できました。

講演ではさらにテーパリング開始を考えていく上で向こう数カ月の経済データを見守るとしているので、年末までのここ数か月の雇用統計の結果やCPIなどの経済データの推移が注目されそうです。

現時点ではパウエルは来期続投の内示を受けていない可能性も

パウエル議長の講演内容はここ数か月における公的な場での発言とほとんど変わらないものという印象を受けました。

イエレン議長はパウエル続投を周辺のスタッフに仄めかしたという報道もありますが、やはり正式には続投が決まっておらずあくまで政権との親和性が高いことを暗示した非常に気を使った内容であったという印象も高まりました。

もともとパウエル議長は共和党員でありトランプ前大統領から指名を受けて議長に就任しているので、イエレンとの深層的なレベルでの関係が良好なのかどうかはわかりません。

またエリザベスウォーレンをはじめとする民主党左派や環境団体のアクティビストからは適切な人材ではない、不適切な人物であると言った厳しい批判を受けているので、オバマお気に入りで民主党員のブレーナード氏に交代する可能性も相当残っており、ここからは経済指標の推移とは別にFRB議長人事がどう決着するのかに注目が集まるでしょう。

バイデン政権はここから巨額の財政出動をはじめようとしており、そのほとんどは赤字国債でまかなおうとしているので、簡単に利上げになるような政策をFRBが持ち出してくることに相当な抵抗感があり、自分たちの政策に寄り添うFRB議長を任命してくることになると思われます。

ブレーナード氏を選択した場合にはそれが完全に実現する可能性は強く、さらに米国金融機関に対する厳しい規制をかけてくることも予想されているので、厳密にいえばこのFRB議長人事こそがテーパリングの行方を最も重要な要素であることが分かります。

デルタ株感染は想像以上でこれも緩和措置巻き戻しを阻む要件に

米国ではデルタ株感染が非常に増加しつつありますが、先行して感染が拡大した地域では一旦収まるという動きも見えており、コロナ感染には確実に波があって数か月以上は続かないことが分かり始めました。

ただ一旦終息した段階で次のラムダ株が爆発的感染になる可能性も否定できず、感染者数の上下動だけでコロナが収束したと安易に考えてはいけません。

FRBとしては今後も新型コロナ感染の状況とそれが経済に与える影響を注視していくことになると思いますが、早い決断はかなり難しく、これも結果的に早期のテーパリング実施を阻む大きな要素となる可能性があります。

金融市場は明確なテーマが見つからないことからFRBのテーパリング開始時期に多くの関心を集めていますが、実はそんなに早くテーパリングが実現しない材料もたくさんあり、期待が大きく裏切られる可能性も考えておいた方が良さそうです。